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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 ― 第466回

7nmのVegaは2018年後半に出荷開始 AMD GPUロードマップ

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII.jp

 前回に引き続き、AMDのCOMPUTEXにおける発表を説明しよう。今回はGPU周りである。発表の順序としてはRadeon RX Vega56 Nanoからになる。

Radeon RX Vega56 Nano発表Vega64 Nanoは熱と消費電力が厳しく非現実的

COMPUTEX TAIPEI 2018でRadeon RX Vega56 Nanoを示すScott Herkelman氏(Corporate VP&GM, Radeon Gaming)

 もともとRadeon RX Vega56 Nanoのオリジナルは、昨年8月にSIGGRAPHで突如登場したビデオカードである。

昨年のSIGGRAPHで突如登場したRadeon RX Vega56 Nanoと思わしきビデオカード

 この際の画像と今回の画像を比較していただくとわかるが、そもそもファンの位置が微妙に違うし(口径はほぼ同程度)、全長も気持ち長めになっている気がする。また、補助電源コネクターも昨年のものは8ピン×1だったのが、今回発表されたものは8ピン+6ピンになっている。

会場が暗かったせいでやや画像が荒れているのはご容赦を。ボード全長のぎりぎりまでヒートシンクが延びているのは、昨年8月と同じ

 ということで、昨年発表されたアレはなんだったのか? という話だが、Sasa Marinkovic氏によれば「もともと昨年公開したものはコンセプトモデルという位置づけのもので、そこから改めて製品化に向けて仕様を決めた」そうである。ちなみにMarinkovic氏は「サイズは(コンセプトモデルと)同じ」としている。

 さて、Radeon RX Vega56 Nanoであるが、カタログスペック的にはRadeon RX Vega 56とほぼ同一で、56CU・定格1156MHz/ブースト時最大1471MHz・HBM2 8GBとなっている。

 わずかに違うのは、Radeon RX Vega56のリファレンスでは補助電源が8ピン×2な程度だ。ただこれもMarinkovic氏によれば、「スペックは一緒だが動作プロファイルが異なる」という話であった。放熱能力的にはNanoの方がやや厳しいため、温度が上がり始めた際の動作周波数の下げ方をより急にしてあるのだと思われる。

 ついでに書いておけば、OEM元であるPowerColorはカードサイズを170mmとしており、これはMini ITXに対応したキューブケースにぎりぎり入る大きさだが、当然放熱はさらに厳しくなる。おそらくプロファイルは、こうしたケースも想定していると思われるので、比較すると特に連続稼動時の性能低下がより顕著になる可能性はあるだろう。

 ちなみに今回はPowerColorが製品化したわけだが、別にPowerColorとの独占契約というわけではないそうで、他社からも製品が登場する可能性はあるそうだ(具体的な話はMarinkovic氏も教えてくれなかった)。

 なぜVega64ではなくVega56なのか? については「それ(Vega64)は良いアイディアとは思えない。確かに技術的には可能だが、熱と消費電力がさらに厳しいことになるから、フル(定格周波数)で動かすことは困難だろう。個人的にはRadeon RX Vega56が良いバランスだと思っている」という回答であった。

 確かに水冷ヘッドでも付けない限り、Mini ITXのケースに収めた状態で連続稼動はかなり厳しいだろうし、水冷ヘッドを付けた時点ですでにMini ITXのケースに収まりそうにない。

7nmのVegaは今年後半に製品の出荷を開始

 本題は7nmのVegaである。会場ではCinema4D R19を使ってのレンダリングデモが行なわれ、きちんと動作することが示されたうえで、すでにこのRadeon Vega 7nmを搭載したRadeon Instinctが顧客向けのサンプル出荷を開始しており、今年後半に製品の出荷を開始することが明らかにされた。

7nm Vegaのパッケージを示すLisa Su CEO
バイクの一部分のレンダリング。向きを変えると一瞬荒い画像になるが、すぐにレンダリングをやり直してこの画面のようになる。その間数秒
Radeon Vega 7nmを搭載したRadeon Instinctは今年後半に製品の出荷を開始。もっとも右下に小さく“Dates subject to change”(スケジュールは変更の可能性があります)とあるのがおかしい

 Radeon Instinctだけ? という声が聞こえてきそうだが、少なくとも現時点ではRadeon Instinctだけしかロードマップには載っていないようだ。もっともRadeon Instinctでもビデオ出力はある(でなければ先のレンダリング画面が出てこない)ため、これを使ってゲームをするのは不可能ではないだろうが、あまり現実的ではないだろう。理由は2つある(後述)。

7nmプロセス版Vegaのダイサイズは720mm2相当

 まず先ほどのダイ写真から7nm Vegaのダイサイズを推定してみたい。連載442回でやったように、HBM2のサイズが7.75×11.87mmとわかっており、ここから7nm Vegaのダイサイズはおおむね15.0×23.9mmで358.5mm2と推察できる  小さな画像からの推定なので、±1mm程度の誤差はあることを念のために付け加えておくが、とりあえず丸めて360mm2と仮定する。一方14nm LPPを利用したRadeon RX Vega 64/56のダイサイズは510mm2なので、面積でいえば7割ほどに減った形だ。

 ただしGlobalfoundriesの7LPPは、14LPPと比較しておよそ2倍ものトランジスタ密度となる。実はGlobalfoundriesそのものは7LPPについて「ロジック密度は2.8倍になる」と説明しているが、これはスタンダードセルライブラリーを14LPPの7.5トラックから7LPPでは6トラックに変更することも含んでいる。

 一方AMDは「我々はFoundry(Globalfoundries)の提供するスタンダードセルライブラリは利用せず、自社開発のスタンダードセルライブラリーを利用する」(Joe Macri氏)としており、事実Ryzen 2でもGlobalfoundriesの12LPP用のライブラリーは利用していない。このため、ダイサイズが初代Ryzenと変わらない。

 Vega 7nmについてもやはりAMD自身のスタンダードセルライブラリーを利用している模様で、密度は2倍にしかならない計算だ。つまりVega 7nmのダイは、仮に14LPPで製造したとすれば、720mm2相当のサイズになると考えられる。

 いろいろ留保条件はあるにせよ、CU数とダイサイズがほぼ比例するとすれば89.6CU相当になる計算だが、もちろんこんな中途半端なCUはありえないわけで、88CUあたりか、実際はもっとダイサイズが大きくて96CUになると考えられる。

 88CUとすれば、動作周波数が同じなら37.5%ほどCU数が多いわけで、これがそのまま性能差につながるわけだが、37.5%という数字はあまり大きなインパクトにはなりえない。

 では動作周波数は? というと、同一消費電力なら40%アップというのが、2017年のIEDMにおけるGlobalfoundriesの発表である。

同一周波数なら55%消費電力を落とせるし、同一消費電力ならば40%性能が改善できる

画像の出典は、“A 7nm CMOS Technology Platform for Mobile and High Performance Compute Application

 ただ同一消費電力で40%の性能アップを選んでしまうと、CUの数だけ消費電力があがることになる。そうでなくてもRadeon RX Vega 64の時点でTDPが295Wなうえ、HBMの数も増えているため(容量でいえば8GB→32GBで4倍、チャネル数でいえば2倍)、そのままでは400Wを超えかねない。

 となると、動作周波数を若干上げつつ消費電力を落とす、というあたりがベターな選択だろう。下の画像は20%アップのケースで、これだと40%ほどの省電力となる。これならCU増分の分を吸収しつつ、若干の性能アップが可能だ。この場合、トータルの性能改善率は65%ほどになる。

青が20%動作周波数アップの試算(筆者記入)

 「もう少しなんとかならないの?」という気もするが、現実問題としてはこのあたりが妥当なバランスポイントと思われる。この場合、7nm Vegaの理論性能は20.9TFlops(Single Precision)となる。

 対抗馬であるNVIDIAのTesla V100が同じくSingle Precisionで15.7TFlops(NVLink版)とされるから、なかなか良い数字だ。加えてメモリー帯域も従来のVegaの2倍に広がっており、こと科学技術計算に関していえば従来のVegaよりももっと実効性能が上がるかもしれない。

Radeon Instinctがゲームに向かない理由は価格と生産量

 話を戻すと、なぜRadeon Instinctがゲームに向かないかというと、まず価格面である。Globalfoundriesでは詳細を明らかにしていないが、7LPPでは14LPPと比較して、ウェハーの製造コストが軽く倍以上になるようだ(ついにウェハー1枚1万ドルの大台を突破したらしい)。

 理由は複雑な製造過程で(トランジスタ層はSAQP、M0〜M3の配線層はSADPでそれぞれ構築する)、インテルほど冒険をしていない(例えばM0層の配線ピッチは40nm、M1層は56nmである)とはいえ、相応に手間がかかることは否めない。

 これはそのままチップ原価に跳ね返るわけで、ダイサイズは3割減ったといっても、実質的にダイの製造原価は40%以上アップすることになる。おまけにまだまだ高価なHBMを4倍も搭載するわけで、こちらの価格も倍以上のアップとなる。

 こう考えると、現実的なビデオカード価格がTITAN V並になることは避けられないだろう(Tesla V100の100万超えはプレミアとかサポートとか色々他の要素が加味されているが、ここでは純粋に製造原価を考えているので、TITAN Vで比較したい)。

 もちろんこの価格でも買う人間はいるだろうが(例:KTU)、インパクトはあっても市場に大きな影響を与えるものではないだろう。もう少し性能を下げて、それこそGeForce GTX 1080Tiあたりと競合できるようにするとなると、初期の7nm世代の高コスト体質では採算が合わないと思われる。

現行モデル(14nmプロセス)のRadeon Instinct

 もう1つの問題は生産量だ。GlobalfoundriesはSoC向けとHPC向けの2つの7nmプロセスを用意している。少なくともVega 7nmは間違いなくSoC向けを使っており、Zen 2が果たしてどっちかは現時点では不明だが、どちらにせよまだ量産初期段階であり、そうそう大量には製造ができない(動作プロファイルを見るとZen 2もSoCを使いそうな気がする)。

 おまけに厄介なのは、Globalfoundriesで7LPPを製造しているのはニューヨークのFab 8のみという状況なことだ。Fab 8は7LPPのみならず12/14LPP、さらに22FDX/12FDXも手がけており、おまけにEUVもやはりFab 8のみに導入する計画のため、明らかにキャパシティーが足りない。

 以前GlobalfoundriesはFab 8を拡張(Module 2)する計画を立てていたが、一度計画は中断しており、現在もまだ拡張に関しては検討中のままである。こうした状況では、AMDは利幅が取れる製品(Radeon Instinct、EPYC)に7nmを優先的に割り当てざるを得ないし、そうなるとゲーミング向けGPUは当然後回しになるだろう。

 したがって、連載442回で紹介した12nm世代のプロセスを使ったVegaのリフレッシュ版は非常にリーズナブルなはずなのだが、これがさっぱり出てこないのが不思議ではある。COMPUTEXでもMarinkovic氏をさんざん問い詰めたのだが、この件に関しては口が堅くて何もしゃべってくれなかった。

 もっともまもなくAMDはRyzen Threadripper 2を発売するはずで(一応第3四半期中とは言っているが、初代Threadripperは昨年の8月初頭に発売された)、このあたりのタイミングでなにかしらの情報が出てくることを期待したいところだ。

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