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Ze2ベースで1万円台の「Ryzen 3 3100/3300X」の実力をチェック
AMDは2020年4月21日(米国時間)、第3世代Ryzenの低価格モデル「Ryzen 3 3100」および「Ryzen 3 3300X」、そしてPCI Express 4.0(Gen4)を正式サポートした廉価版チップセット「B550」の存在を明らかにした。Zen2ベースのRyzenは今年春前まではメインストリームから超ハイエンドを中心に展開していたが、今年春よりバリュー市場への展開を開始。
まず、日本国内ではOEM/中印市場向けの「Ryzen 5 3500」を投入し、さらにZen+ベースのRyzen 5 2600をややスペックダウンして大幅に値下げした「Ryzen 5 1600AF」を投入してきた。
今回レビューが解禁されたRyzen 3の2モデルは、Ryzen 5 3500と1600AFの中間を埋めるモデルだ。価格はRyzen 3 3100が税込み1万3178円(税別1万1980円)、Ryzen 3 3300Xが税込1万5378円(税別1万3980円)で、国内では5月23日(土)に発売予定。
先日のレビュー時には価格が確定していなかったRyzen 5 1600AFは税込1万978円(税別9980円)で、5月16日(土)に国内で販売が開始される予定だ。これらに競合するインテルのCPUといえば、Core i3-9100(実売1万6000円前後)〜Pentium Gold G5500(実売1万1000円前後)といったところか。ローエンドのCeleronはさておけば低価格インテル製CPUの売れ筋ラインに真っ向から激突する形になる。
今回Ryzen 3 3100および3300Xをテストする機会に恵まれた。時間的・物理的制約の強い中での検証であったため、本稿では基本的な性能をチェックしてみたい。
物理4コアだがクロックはやや高め
まずはRyzen 3 3100と3300Xのスペックをざっっくりと比較してみよう。Ryzen 5が物理6コアなのに対し、Ryzen 3は物理4コアな廉価版という位置づけになる。どちらのモデルもSMTが有効になっているため、Windows上からは論理8コアのCPUとして扱われる。Ryzen 5が6C6T、今回のRyzen 3が4コア(C)/8スレッド(T)、そして3100よりも安価で販売されるRyzen 5 1600AFが6C12Tとなるため、実売価格とマルチスレッド性能がリンクしなくなってしまったのが残念だ。
動作クロックはベースが3.6ないし3.8GHzだが、Ryzen 3 3300Xのブーストクロックは4.3GHzと、格上のRyzen 5 3500よりも高く設定されている点に注目したい。TDPやメモリーコントローラーの仕様、同梱されるCPUクーラーの種類はRyzen 5 3500と共通となっている。
※価格はRyzen 5 3500が現在の実売価格。他は日本AMDが公式発表した価格。いずれも税込み
前掲のスペック表からは、Ryzen 3 3100と3300Xは単なるクロック違いのモデルのように見えるが、実は内部構造は大きく異なる。Zen2ベースのCPUは、CPUコア本体を実装するCCDの中にCCXが2基入り、1CCXあたり最大4C8Tまで実装できる。1基のCCDで最大8C16Tまで実装できるが、Ryzen 3 3100のCCDは2C4TのCCXが2基入った構造となる。これに対しRyzen 3 3300XのCCDは4C8TのCCXが1基しか存在しない(もう片方は無効化されている)。
これはわずかな違いのようだが、L3キャッシュはCCX単位で実装されるため、データのある場所によってはCCXをまたぐ必要のあるRyzen 3 3100はコア間レイテンシーの点で不利。逆に全部が1CCXで完結するRyzen 3 3300Xは3100よりも低レイテンシーで動くことが可能になる。これが前掲の「CPU-Z」のL3キャッシュ表記の違いだ。
2万円以下の低価格Ryzenとの性能比較
今回の検証環境は、前回Ryzen 5 1600AFの検証環境をそのまま継承し、Ryzen 5 3500と1600AFにコア数の少ないRyzen 3 3300X/3100がどこまで食らいつけるかチェックしてみたい。メモリーはXMPを有効にし、各CPUの定格で運用、さらにCPUは冷却条件を揃えるためENERMAX製の低価格小型空冷クーラーを使用している。
【検証環境】 | |
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CPU | AMD「Ryzen 5 3500」 (6コア/6スレッド、3.6~4.1GHz) AMD「Ryzen 5 1600AF」 (6コア/12スレッド、3.2~3.6GHz) AMD「Ryzen 3 3300X」 (4コア/8スレッド、3.8~4.3GHz) AMD「Ryzen 3 3100」 (4コア/8スレッド、3.6~3.9GHz) |
マザーボード | ASRock「B450 Steel Legend」 (BIOS P3.20) |
メモリー | G.Skill「F4-3200C16D-16GTZRX」(DDR4-3200、8GB×2) |
ビデオカード | ASRock「Radeon RX 5500 XT Challenger D 4G OC」 (Radeon RX 5500 XT) |
ストレージ | Crucial「CT1050MX300SSD4/JP」 (M.2 SATA SSD、1.05TB) |
電源ユニット | Super Flower「Leadex Platinum 2000W」 (2000W、80Plus Platinum) |
CPUクーラー | ENERMAX「ETS-N31」 |
OS | Windows10 Pro 64bit版 (November 2019 Update) |
クロックの高さで上位CPUを食うことも
では「CINEBENCH R20」のスコアー比較から始めよう。Ryzen 3 3100よりも安いRyzen 5 1600AFがどの位置につけるのかが見ものだ。
いきなり驚きの結果が出た。Ryzen 5 3500とRyzen 3 3300Xの価格設定はほぼ同一だが、マルチスレッドのスコアーはほんのわずかにRyzen 5 3500が高いだけでほぼ誤差程度。さらにシングルスレッドのスコアーはRyzen 3 3300Xの方が明らかに高い。ブースト時最大クロックはRyzen 3 3500よりRyzen 3 3300Xの方が高めに設定されているので当然の結果だが、このスコアーでは明らかにRyzen 5 3500の立つ瀬がない。
マルチスレッドのスコアーだけで見ると6C12TのRyzen 5 1600AFが最も高くなるが、コアの設計が前世代(Zen+)ゆえにシングルスレッドが弱い。このテストだけを見れば、Ryzen 5 3300Xは相当にバランスの良いCPUといえるだろう。Ryzen 3 3100も悪くはないが、たった2千円差で3300Xが買えることを考えると、あえて3100を選ぶメリットはないといえる。
次は「PCMark10」でさまざまな利用環境における総合性能をチェックしよう。今回もゲーム以外のテストを実行する“Standard”テストを実施した。総合スコアーのほかに、各テストグループ別のスコアーの出方の違いもチェックする。
驚いたことにここでトップに立ったのはRyzen 3 3300X。コア数の点ではRyzen 5に負けるものの、ブースト時最大クロック4.3GHzという設定が明らかに功を奏している。負荷の軽めなEssentialsテストグループにおいてはRyzen 3 3300Xが圧倒的に強いが、CPUの並列度が効きやすいDCCテストグループではRyzen 5に負けることもある。
しかし、低価格のRyzen 5と今回のRyzen 3 3300Xの差はほぼないと言って良い。Ryzen 3 3100はRyzen 5 3500と同等、もしくはやや下程度のポジションにつけているが、価格的には3100の方が安い。上で解説したCCXをまたぐペナルティーについては、ここで見る限りあるかないか分からないレベル(=やや低めに設定されたクロックの影響と言えなくもない)といえる。
ここでゲーミング性能を「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ」ベンチマークでチェックしてみよう。解像度はフルHD固定とし、画質は“最高品質”とした。
スコアーで見てもフレームレートベースで見ても、今回準備した4種類のCPUの差異はほとんど感じられない。CPUの並列度よりもクロックが効くベンチなのでRyzen 3 3300Xがトップに立つのは当然だが、平均フレームレートで見ると3fpsも違わない。検証に使ったビデオカード(RX 5500XT)がややボトルネック気味というせいもあるが、低予算ゲーミングPCを組んだ時の違いという点では、今回のRyzen 3は既存の低価格Ryzen 5と遜色ないどころかほぼ同格の働きをするCPUであるといえる。
クリエイティブ系作業のベンチとして「Handbrake」を利用し、再生時間約5分の4K H.264動画を「Super HQ 1080p Surround」を利用してフルHDのMP4動画にエンコードする時間を比較する。このベンチはHandbrakeのバージョンが0.01上がったため、全CPUで再計測している。
エンコード時間比較なので、グラフのバーが短い方が優秀。ここではCINEBENCH R20のマルチスレッドテストで高スコアーを出したRyzen 5 1600AFが12スレッドの意地を見せた。Ryzen 3 3300XとRyzen 5 3500はほぼ同着だが、ほんのわずかに3300Xの方が早く処理を終えている。ライバルであるインテルは第10世代のCore i3で4C8Tモデルを投入するが、それと今回のRyzen 3がどう競り合うか楽しみでならない。
最後に消費電力をチェックする。電力計はラトックシステム「BT-WATTCH1」を利用し、システム起動10分後の安定値を“アイドル時”とし、Handbrakeによるエンコード中の安定値を“高負荷時”として計測した。
コア数が多くプロセスルールも1世代古いRyzen 5 1600AFの消費電力がやや高めな一方で、7nmプロセスでコア数も控えめなRyzen 3は消費電力もかなり控えめ。これまでのベンチでRyzen 5 3500よりRyzen 3 3300の方が高性能であることが分かったが、消費電力は一切犠牲にしていないことが分かる。極めて優秀なCPUといえるだろう。
Ryzen 5 3500の凄さが霞むRyzen 3 3300X
以上でRyzen 3 3100/3300Xの検証は終了だ。どちらのCPUも低価格で高性能という謳い文句に嘘はないといえるが、特にRyzen 3 3300Xの輝きには驚くべきものがある。型番的にはRyzen 5 3500が性能的に上のように感じてしまうが、実際にいくつかベンチを回してみるとほぼRyzen 5 3500と同じどころか、越えることも見られた。Ryzen 5 3500の存在意義を脅かすような製品であることは間違いない。
ただこれでRyzen 5 3500は要らない子、と断じるつもりはない。次回はインテルのCore i3ラインも含め、今回時間的制約でカバーできなかったベンチマークも交えつつ、低価格CPUのコストパフォーマンス対決をやってみたい。結果と原稿がまとまるまで、しばしお待ちいただきたい。
掲載当初、各ベンチの図版のRyzen 3 3300Xの表記がRyzen 5 3300Xとなっておりました。該当部分を訂正すると共にお詫び申し上げます。(2020年5月8日12:18)