AMD Ryzen Threadripperは、TDPが軒並み100Wを超え、これを空冷で冷やすとなると超巨大で高価なものを選ばざるを得ない。そうなると簡易水冷クーラーとの価格差が小さくなり、ほかのプラットフォームよりもより積極的に水冷が選ばれやすい印象がある。なにより簡易水冷では、空冷のようにCPU直上でサイズに制限のあるヒートシンクと異なり、大型のラジエータを外気により近いところに設置できる。冷却液が熱輸送でも優れていることと相まって、空冷を超える冷却効率の高さも魅力となっている。
とはいえ、Threadripper自体がハイエンドだけあって高価なことは事実。これに簡易水冷を加えると予算はさらに膨らんでしまう。できれば簡易水冷のコストは抑えたい。一方で、Threadripperの熱量をしっかり冷やせるクラスを選ばなければいけない。それに、Threadripperはソケット規格が特殊で製品の選択肢が少なめだ。こうしたユーザーの悩みに答えるべく、今回Threadripper用簡易水冷を3製品テストした。この結果を、お得な製品選びの参考にしていただければ幸いだ。
先に述べたとおり、Threadripperおよびそのソケット規格である「TR4」は、後発の規格だけに対応する簡易水冷が限られる。まずはソケットTR4対応簡易水冷とはどのようなものかまとめておきたい。
まず、比較的新しい製品としては、ソケットTR4専用簡易水冷がある。今回も調達したEnermaxの「LIQTECH TR4 II」がそれだ。この製品は、ソケットTR4以外は、同じAMDのソケットAM4を含めて非対応。Threadripperで組むと決めた方専用のモデルだ。最大のポイントは、ヘッド部分の設計からThreadripperに最適化されているところになる。Threadripperは、通常のRyzenと比べてもCPUのサイズが大きい。だから、Threadripperのヒートスプレッダのサイズをちゃんとカバーしている製品というのは冷却性能でも期待できる。ただし、さまざまなソケット規格に対応するモデルと異なり、購入対象ユーザーが限られる分、生産数も少なく製造コストも下がりづらい。つまり高価な部類になってしまう。
次に、Asetek互換簡易水冷の存在がある。Asetekは、PC用簡易水冷の大手OEMメーカーである。実際には他社のブランドで販売されるのであまり耳にしないメーカーかもしれないが、ヘッド部分が円筒形でその円周に沿って複数のツメのあるリテンションで固定するタイプだ。ThreadripperのCPUボックスには、このAsetek互換簡易水冷用のリテンションが標準で付属する。ThreadripperのCPUボックスのなかに、ソケットTR4用のドライバの入った黒い小さな箱が入っているが、このAsetek互換簡易水冷用リテンションも入っている。今回用意した簡易水冷のなかでは、NZXTの「KRAKEN X52」がこれに該当する。KRAKEN X52は、Asetekの標準タイプとは少しヘッドの形状が異なるが、ツメの部分は同じである。KRAKEN X52付属のリテンションではなく、Threadripper付属のリテンションを用いれば、無事固定が可能だ。
最後に、ソケットTR4専用のリテンションが用意されているモデル。ヘッドのサイズは、ほかのCPUソケット規格にも対応するが、固定するリテンションとしてソケットTR4用のものも用意している製品ということになる。ひとつだけ注意点を挙げると、今回用意したAntecの「Mercury240 RGB」がその例だが、ソケットTR4用リテンションがオプション扱いとなるものもある。Threadripperのリリース前から販売されている簡易水冷で独自のリテンション構造をしているモデルでは、こうしたオプション扱いとなるものが多い。
このように、ソケットTR4対応簡易水冷はいくつかのタイプに分かれる。その上で、簡易水冷の製品間にも特徴があって、そこで差別化されている。簡易水冷の選び方のポイントもまとめておこう。