導入(Introduction)
ここ数ヶ月、NVIDIAとAMDの両社から、マルチGPU構成を前提としたプロフェッショナル向けビデオカードが相次いで投入されました。

一方は、圧倒的なスペックを誇るNVIDIA RTX PRO™ 6000 Blackwell Max-Q Workstation Edition (96GB)。もう一方は、コストパフォーマンスに優れたAMD Radeon™ AI PRO R9700 (32GB)。
Max-Qが8,500ドル、Radeon™ AI PRO R9700が1,299ドルというメーカー希望小売価格(MSRP)を見れば、この2枚が直接の競合でないことは明らかです。しかし、この価格差こそが「ピークパフォーマンス」と「Bang-for-the-buck(コストパフォーマンス)」の対比を浮き彫りにする、絶好の検証材料となります。
価格帯のミスマッチは承知の上で、幸いにも両モデルを複数枚確保できたため、DaVinci Resolve StudioにおいてGPUの枚数がどのようにパフォーマンスに寄与(スケール)するかを徹底検証することにしました。ResolveにおけるマルチGPU検証は約1年ぶりとなりますが、NVIDIAの新しいBlackwell GPU、そしてDaVinci Resolve自体のアップデートにより、そのパワーバランスがどう変化したのかを探ります。
今回の検証において、AMDとNVIDIAの両モデルは1枚あたりの定格消費電力が300Wに設定されています。これは、標準的な120V電源(一般的に最大1600W出力)を搭載したワークステーションであれば、3枚構成でも大きな問題なく動作することを意味します。
理論上は、CPUやその他のコンポーネントの消費電力次第で4枚構成も可能かもしれません。しかし、これほど多くのGPUをサポートするプラットフォームはシステム全体の消費電力も非常に大きく、300Wのカード4枚を安定稼働させるのは現実的(Untenable)ではありません。さらに、このクラスのカードを4枚詰め込むと、特定のワークロードで冷却が追いつかなくなることも分かっています。そのため、今回の検証では各カードの間に空隙を設けてエアフローを確保できる「3枚構成」を上限として選択しました。
テスト設定(Test Setup)
今回の検証では、DaVinci Resolve Studio 20.0.1と、当社のベンチマークツールPugetBench for DaVinci Resolve v1.2.0を使用しました。このツールは、コーデック処理からGPUエフェクト、そして最新のAIベース機能まで、Resolveにおける広範なタスクを網羅しています。
ここで重要なのは、テスト対象が「Studio(有償版)」であるという点です。Resolveの強力なGPU機能やマルチGPUサポート、AIツールの大部分は有償版でなければ有効になりません。このクラスのシステムを構築するユーザーが無料版を使っているケースは稀だと思われますが、念のため明記しておきます。
ハードウェア構成
Test Platform
| CPU: AMD Ryzen™ Threadripper™ PRO 9975WX |
| CPUクーラー: Asetek 836S-M1A 360mm AIO |
| マザーボード: ASUS Pro WS WRX90E SAGE SE BIOS Version: 1106 |
| メモリ: 8x DDR5-4800 32GB RDIMMs (256GB total) |
| PSU: Super Flower LEADEX Platinum 1600W |
| ストレージ: Samsung 980 Pro 2TB |
| OS: Windows 11 Pro 64-bit (26100) Power Profile: Balanced |
GPUs
| 1-3x NVIDIA RTX PRO™ 6000 Blackwell Max-Q Workstation Edition Driver: 576.52 1-3x AMD Radeon™ AI PRO R9700 Driver: 25.6.1 |
CPUには現在Resolveでトップクラスの性能を誇るAMD Ryzen™ Threadripper™ PRO 9975WXを採用し、PCIeレーンの不足によるボトルネックを排除しています。
総合的なマルチGPUパフォーマンス(Overall Multi-GPU Performance)
PugetBenchはDaVinci Resolveの多岐にわたる側面をテストするため、ワークロードごとに詳細を分析しますが、まずは全体像を把握するための「総合スコア(Overall Score)」を見てみましょう。

総合スコアは、CPUヘビーなテストやマルチGPUでスケールしないテストも含むため、いわゆる「ベストケース」を示すものではありません。しかし、実作業における包括的な期待値を示してくれます。
結果として、NVIDIA RTX PRO 6000 Blackwell Max-Qを複数枚使用しても、総合スコア上では期待ほどのメリットは見られませんでした。1枚から3枚の構成におけるスコア差は、すべて約6%以内に収まっています。一方でAMD Radeon™ AI PRO R9700はより顕著なスケーリングを見せ、2枚で約20%、3枚で約30%の向上を記録しました。
これは「NVIDIAの複数枚構成に価値がない」という意味ではなく、特定のボトルネックがどこにあるかを理解する必要があることを示唆しています。
RAWコーデック処理(RAW Codec Processing)
次に、Cinema RAW、ARRIRAW、X-OCN、BRAW、REDなどのRAWコーデック処理を検証しました。

ここではNVIDIAとAMDで非常に対照的な挙動が見られました。NVIDIA 6000 Blackwell Max-Qでは、BRAWの2枚構成時に40%の向上が見られた以外、スケーリングはほぼ皆無でした。さらにRED RAWでは、3枚構成時に20~30%の性能低下(リグレッション)が発生しました。
対照的にAMD Radeon™ AI PRO R9700は、2枚構成で平均64%、3枚構成で平均74%の向上を記録しました。NVIDIAが伸び悩んだ理由は、カード単体の性能が高すぎるために、AMD Ryzen™ Threadripper™ PRO 9975WXをもってしてもCPU側がボトルネックとなり、カードを遊ばせてしまっているためと考えられます。
Fusion
Fusionセクションは、DaVinci Resolveの中で最もマルチGPU構成と相性が悪い分野です。

残念ながら、最新ハードウェアとv20の組み合わせでも状況は変わりませんでした。NVIDIA、AMD共にあからさまな「シングルGPU推奨」の結果となり、カードを増やすほどパフォーマンスは大幅に低下します。特筆すべきは、FusionにおいてはAMD GPUがNVIDIAのハイエンドモデルに対して明確なアドバンテージを維持している点です。
GPUエフェクト(GPU Effects)
OpenFXやノイズ除去といった「GPUエフェクト」は、マルチGPU構成が最も得意とするワークロードです。

ここでは両者ともに素晴らしいスケーリングを見せました。NVIDIAは3枚構成で1枚時の約2倍の性能に達し、AMDは3枚構成で実に1枚時の2.5倍という驚異的な伸びを記録しました。
興味深い事実は、「AMD Radeon™ AI PRO R9700の3枚構成」が「NVIDIA Max-Qの1枚構成」とほぼ同性能である点です。NVIDIA 1枚(8,500ドル)に対し、AMD 3枚なら半額以下のコストで同等のエフェクト処理能力を得られます。VRAMの合算ができない、消費電力が増えるといったデメリットはありますが、コスト重視なら非常に強力な選択肢です。
AI機能(AI Features)
最後は、DaVinci Resolve Studio 20で特に注目されている「AI機能」の検証です。当社のベンチマークでは、スーパースケール、フェイスレタッチ、マジックマスク、リライト、ビデオスタビライザー、スマートリフレーム、字幕作成など、15種類ものAIベース機能を網羅しています。

結果は、RAWコーデック処理のセクションと似た傾向を示しました。NVIDIA側では複数枚構成によるスケーリングは限定的で、その理由はやはりGPUの処理能力に対してCPUがボトルネックとなっているためだと推測されます。
ただし、個別のテストに目を向けると興味深いデータが得られました。「フェイスレタッチ」「人物マスク」「デプスマップ」「オプティカルフロー(スピードワープ)」といった特定の高負荷タスクでは、2枚構成で約60%増、3枚構成で約100%増という非常に良好なスケーリングを確認できました。
一方、AMDのRadeon™ AI PRO R9700は単体性能がMax-Qに及ばない分、複数枚による伸び代が残されていました。平均して2枚構成で25%、3枚構成で44%のパフォーマンス向上が見られました。NVIDIAと同様に、スーパースケールやスマートリフレームといった特定の項目ではより大きな恩恵が得られています。
DaVinci Resolve Studioは複数GPUでどこまで性能が伸びるのか?
DaVinci Resolve Studioは、ビデオ編集、モーショングラフィックス、VFX、オーディオ、そして多岐にわたるAI機能までを統合した広大なアプリケーションです。FusionやFairlightなどが買収によって統合されてきた経緯もあり、ハードウェアの活用方法はタスクによって劇的に異なります。
今回の検証から得られた、マルチGPU構成の恩恵を受けられる3大要素は以下の通りです。
- RAWコーデック処理
CPUとGPUが密接に連携するため、その価値は「CPUとGPUのバランス」に依存します。今回のAMD Ryzen™ Threadripper™ PRO 9975WXのような最速CPUであっても、NVIDIA RTX PRO 6000 Blackwell Max-Qの1枚の性能に追いつくのが精一杯でした。この場合、カードを追加しても性能は伸びません。逆に、1枚あたりの負荷が適度なAMD Radeon™ AI PRO R9700では、3枚構成までしっかりと性能が向上しました。
- GPUエフェクト(OpenFX・ノイズ除去)
これこそがマルチGPU構成が最も輝く分野です。強力にGPU加速されるため、CPUボトルネックの影響を受けにくく、非常に優れたスケーリングを見せます。NVIDIA 3枚構成で約2倍、AMD 3枚構成では約2.5倍という劇的な高速化が期待できます。
- AIベースの最新機能
「AI=GPU」と思われがちですが、ResolveのAIタスクの多くはCPUも激しく使用します。結果として、NVIDIAのハイエンド構成では複数枚のメリットがほとんど見られませんでした。AMDではスケーリングが見られたものの、それでもNVIDIA Max-Qの「単体性能」を上回ることはできませんでした。
最終的な結論:あなたのワークステーションに「追加のGPU」は必要か?
結論として、マルチGPUの活用はDaVinci Resolve Studioにおいて極めて有益ですが、それは決して「万能」ではありません。
スケーリングは完璧ではなく、パフォーマンスの向上幅を予測するのは困難です。それは特定のタスクだけでなく、CPUとGPUの相対的なパフォーマンスバランスに左右されるからです。しかし、もしあなたがOpenFXやノイズ除去のレンダリング待ち時間に日常的に悩まされているのであれば、システムにGPUを追加することは、高額ではありますが「確実に、そして劇的に」作業効率を改善する唯一無二の手段となるでしょう。
ただし、複数枚のGPUによる膨大な消費電力と発熱の管理、そして物理的なスペースの確保には細心の注意が必要です。自身のワークフローにおける「真のボトルネック」がどこにあるのかを見極め、最適な構成を選択してください。




