2020年11月20日、AMDのハイエンド向けGPU「Radeon RX 6800 XT」(以下、RX 6800 XT)および「Radeon RX 6800」(以下、RX 6800)を搭載したビデオカードが、日本市場で発売開始となったのは記憶に新しいことだろう。前世代となるRadeon RX 5000シリーズでは、AMDはハイエンド向けGPUを投入しなかったこともあり、このRX 6800 XTとRX 6800は、競合製品とパフォーマンスで勝負できる高性能なGPUとして、それから半年近く経過した2021年4月の時点でも、ユーザーからも注目度は高い。
RX 6800 XTやRX 6800そのもののパフォーマンスについては、さまざまなレビュー記事でテストされており、本稿で改めて紹介する必要はないだろう。その一方で、注目したいのは、先ほども述べたとおり、RX 6800 XTとRX 6800が“久方ぶりのハイエンド向けモデル”であるという点だ。AMDのハイエンド向けGPUは、シェーダプロセッサー数を3840基以上に絞ると、RX 6000シリーズの前は2019年2月に登場した「Radeon VII」まで戻ることになり、さらにその前のモデルはというと2017年8月の「Radeon RX Vega 64」(以下、RX Vega 64)となる。
では、これらの性能差はどの程度あるのだろうか。3年半の期間を経て、AMDのハイエンド向けGPUはどれだけの性能向上をはたしているのか、実際のゲームにおいて確かめてみるというのが本稿の主旨となる。
大きな変遷を辿るAMDのハイエンド向けGPU
Radeon VIIやRX Vega 64がどのようなGPUだったのか、すでに忘れてしまった人も多いのではないだろうか。そこで、これらのGPUを改めて紹介しておくと、まずRX Vega 64は、従来の「Graphics Core Next」(以下、GCN)アーキテクチャーを踏襲しながらも、演算ユニットのブラッシュアップを図り、さらにビデオメモリーには、広帯域幅メモリー「High Bandwitdth Memory」の第2世代モデルである「HBM 2」を採用したGPUだ。
RX Vega 64のメモリーインターフェースは2048bitを誇る一方で、メモリークロックは1.89Gbpsに抑えられているため、メモリーバス帯域幅は484GB/sに留まっている。また、HBM 2を採用したことでメモリー容量を簡単に増やすことができず、ハイエンド向けモデルでありながら、メモリー容量が8GBに留まっている点もRX Vega 64のネックとなっていた。
そこで、Radeon VIIでは、まずプロセスルールを7nm FinFETへと微細化し、RX Vega 64からダイサイズの縮小を実現。RX Vega 64がダイサイズ486mm2に125億個のトランジスターを集積したのに対して、Radeon VIIではその約67%となる331mm2のダイに、約6%多い132億個のトランジスターの集積を実現。集積度が向上したことで、HBM 2をダイに4基搭載することが可能となり、メモリーインターフェースは4096bit、メモリー容量は16GBへとそれぞれ向上し、メモリー周りの弱点を克服したというわけだ。
Radeon VIIのメモリーバス帯域幅は1TB/秒にまで達しており、2021年4月において、コンシューマー向けGPUでこの1TB/秒を上回るモデルは競合製品を含めても登場していない。しかし、GPUコア自体はRX Vega 64と同じ第5世代GCNアーキテクチャーを踏襲しているため、目新しさはあまりなかった。
RX 6800 XTとRX 6800は、ビデオメモリーにそうしたHBM 2に代わるGDDR6を採用している。GDDR6は、メモリーインターフェースでHBM 2に到底太刀打ちできないものの、16Gbpsという高いメモリークロックにより、メモリーバス帯域幅は512GB/秒を実現。これは、HBM 2を採用していたRX Vega 64を上回っている。また、GPUコアにはRDNA 2アーキテクチャーを採用し、レイトレーシング処理を行なう「Ray Accelerators」や新しいキャッシュシステムであるAMD「Infinity Cache」を搭載するなど、新機能が盛りだくさんだ。
そんなRX 6800 XTとRX 6800の主な仕様を、Radeon VIIならびにRX Vega 64とともにまとめたものが以下の表となる。なお、今回、テストにはRX Vega 64の簡易液冷モデルである「RX Vega 64 Liquid Cooled Edition」を利用しているので、表にはそのスペックを記している。