最近のライター仕事は多岐に渡っており、写真を撮影・現像するどころか、ちょっとした動画を編集・書き出しする機会も増えています。このようなクリエイティブ系ワークを快適にこなすためには、PCの処理能力が高いにこしたことはありません。
私は現在「Core i7-8086K」(4万7000円前後、6コア12スレッド)と「GeForce GTX 1080」(約7万円前後)、を搭載したPCを使用しているのですが、最近作ったばかりの割には、従来使っていたPCよりもパフォーマンスが急激に上がったという感じを受けませんでした。そのため、価格が安くなってきた16コア32スレッドのAMD CPU「Ryzen Threadripper 1950X」に目を付けました。
そこで、前回「初めてでも安心!16コア32スレッドのRyzen Threadripper 1950Xの作り方【自作編】」という記事に至ったわけです。この際、グラフィックスボードはASRockの「Phantom Gaming X Radeon RX580 8G OC」を使用していました。
グラフィックスボードの性能としては、GTX 1080の方が上ですが、今回はこのグラフィックスボードの性能差を、CPU性能で上回れるかということも見てみたかったので、あえて「Ryzen Threadripper 1950X」と「Phantom Gaming X Radeon RX580 8G OC」の組み合わせで、今の私の自宅環境を上回れるかを試してみました。なお、マザーボードのみ貸し出し機材の都合で、前回のASRock「X399 Taichi」から「X399 Professional Gaming」に変更しています、その点のみご了承ください。
今回自作した「Ryzen Threadripper 1950X」搭載デスクトップPCと、筆者のメインデスクトップPCの主なスペックは下記の通りです。
Ryzen Threadripper 1950X搭載PC | Core i7-8086K搭載PC | |
---|---|---|
CPU | Ryzen Threadripper 1950X(16コア32スレッド、3.4〜4GHz) | Core i7-8086K(6コア12スレッド、4〜5GHz) |
メモリー | 32GB DDR4-2133 SDRAM | 32GB DDR4-2133 SDRAM |
ストレージ | Samsung SSD 970 EVO 250GB | Samsung SSD 960 EVO 500GB |
グラフィックス | Radeon RX 580 | NVIDIA GeForce GTX 1080 |
マザーボード | X399 Professional Gaming | ROG MAXIMUS X FORMULA |
検証環境
種別 | 製品名 | 価格 |
---|---|---|
CPU | AMD「Ryzen Threadripper 1950X」 | 10万3000円前後 |
グラフィックス | ASRock「Phantom Gaming X Radeon RX580 8G OC」 | 3万5000円前後 |
メモリー | Corsair「CMK32GX4M4B3200C16」 | 4万7000円前後 |
マザーボード | ASRock「X399 Professional Gaming」 | 5万円前後 |
CPUクーラー | NZXT「KRAKEN X72 RL-KRX72-01」 | 2万7000円前後 |
システムドライブ | Samsung「970 EVO MZ-V7E250B/IT」 | 1万1800円前後 |
データドライブ | Seagate「BarraCuda ST4000DM004」 | 1万円前後 |
PCケース | LIAN LI「O11 AIR」 | 1万5500円前後 |
※価格は9月12日のもの
では、実際にベンチマークのスコアーを見ていきましょう。今回は「CINEBENCH R15」、「CPU-Z」、「CrystalMark 2004R7」、「PCMark 10 v1.1.1739」、「Adobe Lightroom Classic CC」、「Adobe Premiere Pro CC」でベンチマークを実施しました。
まずはCPU単独のパフォーマンスから比較します。「Ryzen Threadripper 1950X」搭載PCは「Core i7-8086K」搭載PCに比べて、「CINEBENCH R15.0」のCPUスコアは1.99倍、「CPU-Z」のCPU Multi Threadスコアは2.3倍、「CrystalMark 2004R7」のALU(整数演算)は2.13倍、FPU(浮動小数点演算)は1.83倍と、おおむね約2倍のパフォーマンスを記録しています。コア数の2.67倍差には届きませんが、まずまず満足できる結果です。
CINEBENCH R15.0
Threadripper 1950X | Core i7-8086K | |
---|---|---|
OpenGL(単位:fps) | 89.72 | 141.71 |
CPU(単位:cb) | 2825 | 1423 |
CPU(Single Core、単位:cb) | 167 | 195 |
CPU-Z
Threadripper 1950X | Core i7-8086K | |
---|---|---|
CPU Single Thread | 450.4 | 518.9 |
CPU Multi Thread | 8851.6 | 3848.7 |
CrystalMark 2004R7
Threadripper 1950X | Core i7-8086K | |
---|---|---|
Mark | 961474 | 570811 |
ALU | 398091 | 187107 |
FPU | 291260 | 158855 |
MEM | 133622 | 107583 |
HDD | 67198 | 65960 |
GDI | 9787 | 21857 |
D2D | 4428 | 29427 |
OGL | 57088 | 22 |
つぎにPCのトータルパフォーマンスを計測する「PCMark 10 v1.1.1739」の結果を見てみましょう。こちらは「Threadripper 1950X」搭載PCは「Core i7-8086K」搭載PCに比べて、Totalスコアーで0.82倍と苦戦しています。
PCMark 10 v1.1.1739
Threadripper 1950X | Core i7-8086K | |
---|---|---|
Total | 5200 | 6325 |
Essentials | 8456 | 9517 |
App Start-up Score | 9598 | 11466 |
Video Conferencing Score | 8603 | 8376 |
Web Browsing Score | 7325 | 8976 |
Productivity | 6707 | 8177 |
Spreadsheets Score | 9243 | 9925 |
Writing Score | 4867 | 6738 |
Digital Conternt Creation | 6730 | 8824 |
Photo Editing Score | 9231 | 9527 |
Rendering and Visualiziation Score | 10448 | 11913 |
Video Editing Score | 3161 | 6054 |
これは言うまでもなく「Ryzen Threadripper 1950X」搭載PCが「Radeon RX 580」、「Core i7-8086K」搭載PCが「NVIDIA GeForce GTX 1080」をグラフィックスボードとして搭載しているための差が大きいでしょう。ところが、つぎのクリエイティブ系アプリのベンチマークでは「Ryzen Threadripper 1950X」搭載PCが好成績を叩き出しています。
「Ryzen Threadripper 1950X」搭載PCと「Core i7-8086K」搭載PCのクリエイティブ系アプリの実測処理時間の差は、「Adobe Lightroom Classic CC」で42%、「Adobe Premiere Pro CC」で30%の処理時間短縮を記録しています。PCMark10のPhoto Editing Scoreでは、「Ryzen Threadripper 1950X」は「Core i7-8086K」に負けていますが、実際のアプリでは圧倒的な性能差を見せています。この結果を鑑みれば、グラフィックスカードの価格差を跳ね返すほどのパフォーマンスを「Ryzen Threadripper 1950X」が備えていると言えるでしょう。
Adobe Lightroom Classic CC
Threadripper 1950X | Core i7-8086K | |
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100枚のRAW画像を現像(カラー-自然) | 2分40秒45 | 4分35秒81 |
Adobe Premiere Pro CC
Threadripper 1950X | Core i7-8086K | |
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5分の4K動画を書き出し(H.264) | 4分37秒81 | 6分38秒59 |
Ryzen Threadripperシリーズには第2世代の「Ryzen Threadripper 2990WX」(23万2000円前後、32コア64スレッド)、「Ryzen Threadripper 2950X」(11万6000円前後、16コア32スレッド)がリリースされていますが、「Ryzen Threadripper 1950X」との価格差は前者が12万9000円、後者が1万3000円と大きく開いています。
加藤勝明氏のASCII.jpの記事「32コア64スレッドは乗りこなせるか? 第2世代「Ryzen Threadripper」を速攻で試す」によれば、「Threadripper 2950X」と「Threadripper 1950X」の「CINEBENCH R15」のCPUスコア差は1.14倍に留まっています。
「Threadripper 2950X」はシングルスレッドの性能が向上していますが、クリエイティブ系アプリはマルチコアの性能を活かせることが多いので、この価格差を考慮すれば「Ryzen Threadripper 1950X」がクリエイター向けCPUとしてコスパ抜群と言えるでしょう。