昨今のPC自作パーツ市場において、今年4月には第二世代Ryzenの2000シリーズが、また、第二世代Ryzen Threadripperの解禁が8月にあるなど、新しいAMD CPUの相次ぐ発売で盛り上がりをみせています。
新しいRyzenの中での売れ筋と言えば、やはりどこを見ても「Ryzen7 2700X」や「Ryzen5 2600X」といった、所謂「X付き」のモデルでしょう。その中でひっそりと影を潜めているXが付いていないもの所謂「無印」の存在です。
実は、この「無印が影を潜めている」状況は、日本「だけ」で起こっているということはご存知でしょうか。海外ではコストパフォーマンスを比較した性能により、「無印」の方が売れ筋が先行していたのです。
この記事が掲載される頃には、もしかしたら逆転しているかもしれないので、ここはあえて「先行していた」という事後報告的な言い回しを使わせて頂きますが、海外市場では、そういう傾向にあるということはご承知おき下さい。
さて、当初よりその現象が気になっていました。まずは、価格や使用上の性能が近いなど、購入時に比較されるであろうインテル製CPUとスペックで比べてみます。Ryzen7 2700の対抗としては、第8世代の「Core i7-8700」を、Ryzen5 2600の対抗で「Core i5-8500」をそれぞれ引き合いに取り上げてみました。どちらもRyzenのXなしに合わせて、オーバークロックが可能な「K」付きではないモデルです。
Ryzen7 2700 | Core i7-8700 | Ryzen5 2600 | Core i5-8500 | |
---|---|---|---|---|
CPUコア数 | 8 | 6 | 6 | 6 |
スレッド数 | 16 | 12 | 12 | 6 |
ベースクロック | 3.2GHz | 3.2GHz | 3.4GHz | 3.0GHz |
ブーストクロック | 4.1GHz | 4.6GHz | 3.9GHz | 4.1GHz |
メモリータイプ | DDR4 | DDR4 | DDR4 | DDR4 |
最大メモリ速度 | 2933MHz | 2666MHz | 2933MHz | 2666MHz |
最大温度 | 95度 | 100度 | 95度 | 100度 |
TDP | 65W | 65W | 65W | 65W |
価格帯 | 約3万5000円 | 約3万6000円前後 | 約1万9000円前後 | 約2万3000円前後 |
Ryzen2000シリーズは全体的にクロックが高めなインテルに対して、コアやスレッド数が多い。RyzenもCore iシリーズも「無印」は「X付き」や「K付き」よりTDPが65Wと低めになっている。また、Ryzenはコアやスレッド数が多いため、最大温度はインテルよりも低い。インテルのTDPの算出は、アイドル時のワット数と高負荷時ワット数との平均値と、AMDと異なるため、公表数値で同じでもAMDの方がTDPが低い傾向にあることも考慮するれば、スペック表だけみてもRyzenの方が優秀と言える。
では、そのスペック上の違いがどのような差を生むのか、実測して確認してみたい。
それでは、実測だとどうなるのか、さっそくテスト結果を見ていきましょう。各テスト環境のパーツ構成は以下の図の通りです。
検証環境 | ||||
---|---|---|---|---|
CPU | AMD「Ryzen7 2700」 | AMD「Ryzen5 2600」 | Intel「Core i7-8700」 | Intel「Core i5-8500」 |
MB | ASRock「Fatal1ty AB350 Gaming K4」 | ASRock「Z370 Extreme4」 | ||
メモリー | CORSAIR「CMK16GX4M2A2133C13」(DDR4-2133 16GB×2) | |||
SSD | SanDisk「SDSSDA-120G-G27」(120GB) | |||
VGA | ASRock「PHANTOM GXR RX580 8G OC」 | |||
CPUファン | Wraith Spire LED Cooler | 付属リテールクーラー |
PCMark10ではRyzenがやや負ける結果に
先ずは総合ベンチマークソフトの「PCMark10」をそれぞれ2回ずつ実行し、高い方のスコアーをそれぞれ取得しました。使用したテストは以下になります。PCMark10は9つのワークロード、4つのテストグループにわかれており、標準のテストでは基本性能を計測する「Essensials」とビジネスアプリ使用時の性能を計測する「Productivity」、コンテンツ制作を測る「Digital Content Creation」の3つを実行。
PCMark 10 Expressは無印から「Digital Content Creation」を省いた2つの項目、Extendedではゲーム関連の性能を測る「Gaming」も含めたすべての項目をテストします。
・PCMark 10 (無印と記載)
・PCMark 10 Express(Expressと記載)
・PCMark 10 Extended
PCMark10では、どのテストでもCore i7-8700が勝利。Ryzen 7 2700とは1.12〜1.16倍の差をつけています。インテルCPUはシングルスレッド性能で勝る傾向にあるが、その傾向が強く表れた結果となりました。「Digital Content Creation」では写真、動画の加工テストも行なわれていますが、いずれもRyzen 5 2600どころかRyzen 7 2700もCore i5-8500にスコアーで負けています。PCMark10はシングルスレッド性能が高い方が、高いスコアーが出る傾向にあるので、これだけで判断するのは時期尚早です。
Ryzenがマルチコア性能で力を見せた!
お次はこちらも定番の「CINEBENCH R15」にてシングルコア、マルチコアともにスコアーを計測しました。計測方法はPCMark10の時と同じく、2回実行し、大きいの方を取得しています。
シングルコアの結果はやはりインテル製CPUに軍配が上がりました、Core i7-8700はRyzen 7 2700の1.15倍、この差がそのままPCMark10のスコアー差と被ります。
一方、注目はマルチコア性能のスコアーです。マルチコアでは、Core i7-8700を同じ6コア12スレッドのRyzen 5 2600が上回る結果になりました。Core i7-8700とRyzen 7 2700の差は約1.26倍と、PCMark10で付いた差よりも高い数値です。
では、実際に動画エンコードなどのクリエイティブ用途に、このマルチコア性能はどこまで活かせるのか、ベンチマークソフトの「x264 FHD Benchmark」を使って計測してみました。このベンチマークソフトは、あまり聞き馴染みのない方もいらっしゃるかもしれませんが、動画(フルHD、174MB、mkvフォーマット)をH.264にエンコードしてFPS値とエンコードタイムを計測します。
このベンチマークソフトでは、いずれもRyzenの方が速くエンコードできるという結果になりました。未だ主流のH.264動画作成では、マルチコア性能の高い方が有利というのがわかります。
コスパも考えるならば、Ryzen 5 2600が非常に優秀。価格が約1.9倍にもなるCore i7-8700にもわずかながら勝っているので、用途によってはRyzen 5 2600はかなりオススメできます。
Ryzenがわずかに勝利!コスパ的にやはりRyzen 5 2600が◎
Ryzenはマルチコア性能を活かした動画編集や写真編集などのクリエイティブ用途に強いというのは、第1世代から変わらないので、ここまではある程度予想どおり。では、第1世代では一部のゲームでライバルに後塵を拝したゲーム性能はどうか気になったので、まずは定番の3DMarkで検証を行ないました。
いずれのベンチもRyzenがインテルCPUに勝るという結果になりました。第1世代のRyzenでは、シングルコア性能が低く、ゲーム系ベンチではインテルCPUに劣るという傾向にありましたが、第2世代Ryzenではシングルコア性能を改善し、対抗のCPUにわずかながら勝るという形になったのでしょう。
特筆すべきはAMD、インテルどちらのCPUも、1万円以上安価な下のモデルに圧倒的な差をつけてはいないので、コスパを考えるならば、価格はもっとも安いがCore i5-8500に勝るスコアーを示したRyzen 5 2600がベストということになります。
では、実ゲームベンチとして定番である「ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター」(以下、FFXIV)と「FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION」(以下、FFXV)のベンチマークソフトではどういった結果になるのでしょう。
・FFXVベンチマーク:高品質 1920×1080、高品質 2560×1440
・FFXIVベンチマーク:高品質 1920×1080
結果は以下の通りです。
どの結果も微差ながら、FF14以外の測定結果以外はRyzen CPUに軍配が上がるという、意外な結果になりました。
いかがでしたでしょうか。第1世代のRyzenは、シングルコアの性能がやや低く、マルチコアを活かす動画や写真編集では優秀なものの、一部のゲームではインテルCPUに若干劣るという印象でしたが、その結果を払拭。XFR2 Enhancedなど、わずかでも自動でCPU性能を上げてくれる機能をフル活用したい場合は、X付きを選ぶ必要はありますが、Xなしのモデルでも高い性能を有し、お買い得です。
マルチコアを活かす作業も第1世代と変わらず優秀なので、ゲームをプレイしながら実況配信も行なう、動画を見ながらMMORPGをお使いミッションをプレイする、好きなBGMをかけながらMOBAを遊ぶといった、「多岐にわたる作業を一度に行なう」のであれば、第2世代Ryzenは魅力的です。
そんな第2世代Ryzenの性能は、メモリのクロック率にも依存します。そのため、PCを自作する際は、前述の最大メモリ速度を参考に、高クロックメモリを使用することをオススメします。
そろそろ気温も落ち着いてくる頃合い。中秋の名月を見ながらのPCライフに新PCをと考えていらっしゃる方は、是非「無印」Ryzen CPUでの自作に挑戦してみてはいかがでしょうか?