Athlon vs Pentium、宿命の対決再び!……「Athlon 200GE」はどこまで使える?
2018年9月28日、AMD製のローエンドAPU(CPU)「Athlon 200GE」の販売が解禁された。これまでSocket AM4の低価格ミドル〜エントリーはRyzen 3/5やGPUを統合したRyzen Gシリーズで、さらに安いローエンド帯はCPUの設計自体が古い“Bristol Ridge”ことAシリーズAPUが守ってきた。
そんななかAMDが投入したのが、今回チェックするSocket AM4版のAthlonだ。Ryzen Gと同じくCPUにZen、GPUにVegaというAMDの最新アーキテクチャーの組み合わせになっている。これにより、AMDのSocket AM4プラットフォームはZenベースの製品でフルカバーされたことになる。
今回は非常に限られた時間ながら、Athlon 200GEをテストをする機会に恵まれた。AthlonといえばかつてインテルのPentiumシリーズと真正面から対決していたCPUだが、2014年のKabini以降音沙汰がなく、その血筋は途絶えたかと思われていた。
だがSocket AM4プラットフォームで、再びPentiumに対抗できるCPUとなって戻ってきた。そこで今回は宿命のライバルであるPentiumも準備。Athlon 200GEがどの程度のパフォーマンスを発揮するのかチェックしてみたい。
Athlon 200GEとは何か
検証に入る前にAthlon 200GEのスペックを軽く整理しておこう。2コア4スレッド、CPUのクロックは3.2GHzのブーストなし、そして重要なのは「倍率はロック」……つまりRyezn GシリーズのようにOCはできないということだが、ローエンドモデルなのでやむなしといったところか。
Ryzen 3 2200G | Athlon 200GE | A12-9800E | |
---|---|---|---|
CPUアーキテクチャー | Zen | Zen | Excavator |
コア/スレッド数 | 4 / 4 | 2 / 4 | 4 / 4 |
ベースクロック
(ブースト時最大) |
3.5GHz
(3.7GHz) |
3.2GHz | 3.1GHz
(3.8GHz) |
L3キャッシュ | 4MB | 4MB | |
搭載GPU | Radeon Vega 8 | Radeon Vega 3 | Radeon R7 |
CU数 | 8基 | 3基 | 8基 |
SP数 | 512基 | 192基 | 512基 |
GPUクロック(最大) | 1100MHz | 1000MHz | 900MHz |
対応メモリー | DDR4-2933 | DDR4-2666 | DDR4-2400 |
外部GPU接続 | PCI-E Gen3 x8 | PCI-E Gen3 x4 | PCI-E Gen3 x8 |
TDP | 65W | 35W | 35W |
設計そのものはRyzen Gシリーズをそのまま小さくしたようなものになっているので、特筆すべき部分はない。ただ運用上若干注意すべき点があるので、まとめておこう。
② B450マザーはBIOS更新しなくても初期BIOSで動作する
③ PCI-Express 3.0のレーン数は“CPU全体で”10レーン
④ 10レーンの使い道はチップセットにx4、M.2にx2、グラボはx4となる
⑤ 内蔵GPUの同時出力数は2画面まで
①についてはRyzen以降のAMDプラットフォームのお約束というべきものだ。安価な300シリーズチップセットを搭載するマザーボードで低予算PCを組む場合、BIOSが対応してないとPOSTすらしない。最新BIOSになっているのを確認できるマザーボードを購入しよう。それが無理なら一番新しいB450チップセットを搭載するマザーボードを選ぶのが無難だ。
③~⑤については、ローエンドならではの成約といえる。グラボへの接続がx16の所をx4にすれば、相応の性能ダウンは避けられない……と言いたいところだが、CPUがAthlonのままで、グラボをハイエンドクラスにするシチュエーションは中々想像し難い。x4だろうがx16だろうが、CPUパワーそのものがボトルネックになるからだ。
グラボへの接続がPCI-Expressのx4、M.2 NVMeへはx2接続といっても、既存のx16接続のグラボやx4接続のM.2 SSDは問題なく利用できることは言うまでもない。
では今回の検証環境を紹介しよう。Athlon環境は比較的安めのB450マザーボードを準備し、ストレージは安価なSATAのSSDを組み合わせた。そして比較対象にはAthlonの仮想敵であるPentium Goldを準備。価格的にはG5400が近いのだが、G5400は普段使いというよりはサーバー用途で人気。
グラフィックス性能がG5500よりも劣るンテル UHD グラフィックス 610であったため、約2000円高いG5500を選択。CPUクロックにして100MHzしか違わないので、強烈な違いは出ないだろうと判断した。ちなみに価格はAthlon 200GEが実売7800円前後、Pentium Gold G5500が実売1万100円前後(2018年10月24日現在)と約2300円ほどの差がある。
【検証環境:Athlon】 | |
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CPU | AMD「Athlon 200GE」(2コア/4スレッド、3.2GHz) |
マザーボード | ASRock「Fatal1ty B450 Gaming K4」(AMD B450) |
メモリー | Corsair「CMU16GX4M2A2666C16R」(DDR4-2666 8GB×2) |
グラフィックス | CPUに内蔵(Radeon Vega 3 Graphics) |
ストレージ | Crucial「CT525MX300SSD1」(SATA SSD、525GB) |
電源ユニット | Silverstone「ST85F-PT」(850W、80PLUS Platinum) |
OS | マイクロソフト「Windows 10 Pro 64bit版」(April 2018 Update) |
【検証環境:Pentium】 | |
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CPU | Intel「Pentium Gold G5500」(2コア/4スレッド、3.8GHz) |
マザーボード | ASRock「Fatal1ty B360 Gaming K4」(Intel B360) |
メモリー | Corsair「CMU16GX4M2A2666C16R」(DDR4-2666 8GB×2、DDR4-2400で運用) |
グラフィックス | CPUに内蔵(インテル UHD グラフィックス 630) |
ストレージ | Crucial「CT525MX300SSD1」(SATA SSD、525GB) |
電源ユニット | Silverstone「ST85F-PT」(850W、80PLUS Platinum) |
OS | マイクロソフト「Windows 10 Pro 64bit版」(April 2018 Update) |
CPUで負けるが、GPUでは勝つ!
では定番の「CINEBENCH R15」から検証を始めよう。Athlon 200GEとPentium Gold G5500はコア数こそ一緒だが、動作クロックは3.2GHz対3.8GHzと、Pentiumが大きくリードしている。Zenアーキテクチャの特徴(泣き所)として、シングルスレッドが弱いというものがあるが、これがどうスコアーに絡んでくるかチェックしたい。
AthlonもPentiumも2コア4スレッドなので、性能も似たり寄ったりだ。Athlon 200GEの性能はPentium Gold G5500よりマルチスレッドで約11%、シングルスレッドで約24%遅いと出ているが、実売9000円のG5500に7000円のAthlon 200GEと考えれば、そうコスパは悪くない。筆者の記憶からシングルスレッド性能が近いCPUを探してみたがHaswell世代のCore i5の下位モデル(Core i5-4460あたり)が近いようだ。
次は「PCMark10」のExtended Testを試す。ただ総合スコアーだけだと何が強い・弱いのかがさっぱり分からないため、テストグループ別にスコアーを検証してみたい。
総合スコアーでは、両者全くの互角。価格の安いAthlon 200GEはコスパに優れた製品といえるだろう。
まずEssentialsテストグループでは、アプリの起動時間においてPentiumが圧倒的。やはりターボブーストなしで3.8GHzで回るCPUなので、瞬発力はあるようだ。だがビデオチャットでは内蔵GPUのパフォーマンスが活きるのか、Athlonが僅差で勝利。どうやら内蔵GPUの頑張りがカギのようだ。
表計算や文書作成といったオフィス系作業の性能を見るProductivityテストグループでは、PentiumがAthlonを上回っている。動作クロックの差が響いているようだ。
クリエイティブ系作業の性能をみるDCC(Digital Contents Creadtion)テストでは、CGレンダリング処理でAthlonが圧勝、動画編集は一転Pentium圧勝となった。前者は内蔵GPUの描画性能が、後者は単純にCPUのクロックが効いていると思われる。
最後のGamingテストグループでは、GraphicsとCombinedでAthlonが、PhysicsでPentiumがスコアーを稼ぎ、トータルではAthlonの勝利となった。Athlonは内蔵GPUで、PentiumはCPUのクロックの高さを活かした演算性能を武器にしている。
ゲーミング性能を軽くさらう前に、定番「3DMark」のパフォーマンスも見てみよう。PCMark10のGamingテストグループ(ほぼFire Stirike)でも十分だが、より軽いテストも実施してみた。
細かいスコアーは割愛するが、基本的にグラフィック性能が重視される局面ではAthlonが勝り、PhysicsではPentiumが勝るというPCMark10と同じ展開となった。スコアーは勝ったり負けたりだが、それぞれのCPUの持ち味を活かしきったというところか。
今回のゲーミング性能比較は「ファイナルファンタジーXIV:紅蓮のリベレーター」公式ベンチを利用した。画質は一番低い“標準品質(ノートPC用)”とし、解像度を720p(1280×720ドット)と1080p(1920×1080ドット)の2通りでテストした。また、スコアーだけでは分かりにくいので、テスト中の平均fpsも比較する。
3DMarkよりもCPUへのスコアー依存度が低く、なおかつメインメモリーのクロックがスコアーに影響しやすい(AthlonはDDR4-2666、PentiumはDDR4-2400)ため、Athlonが圧倒的なスコアー差で勝利。ただ画質を一番低く抑えても、1080p(フルHD)でゲームを楽しむのは難しい。720pの粗い解像度で楽しめるゲームに限定すればなんとか……といったところだ。
3Dゲームが苦手なら2Dゲームなら……と考えるところだが、Vega 3の描画パフォーマンスはそれほど高くない。下のスクリーンショットはインディーズゲーム「Dead Cells」のものだ。2Dオンリーなのでそれほど描画パワーは要らないはずだが、左上のFrapsでフレームレートカウンターを見る通り、時々40〜50fpsに上がるが、基本は30fpsで安定する(ウインドウモードでの測定)。ゲーム目的なら、もう少しパワーのあるRyzen Gシリーズを最初から選ぶ方が得策といえる。
2コア4スレッドなので動画エンコード速度は遅いのは火を見るよりも明らかだが、一応検証してみたい。今回は再生時間2分の4K動画(M4V形式)を「TMPGEnc Video Mastering Works 6」でフルHDに縮小しつつMP4形式に変換する時間を比較する。コーデックはCPUを使うx264のほかに、PentiumはQSV(Intel Media SDK Hardware)も使用した結果も併記した。
絶対的なクロックの高いPentiumが勝つだろうという予想どおりの結果となった。とはいえ、このクラスのCPUでエンコードは明らかに間違い。快速エンコードを狙うなら、もっとパワーのあるRyzen 5や7を使うべきだろう。
では消費電力はどうだろうか? システム起動10分後を“アイドル時”、「OCCT Perestroika v4.5.1」のPower Supplyテストを10分走らせたときの値を“高負荷時”としたのが下のグラフだ。
アイドル時はクロックが中々下がらないAthlonが高いが、高負荷時は3.8GHz動作というクロックの高さがPentiumの消費電力を釣り上げた。Athlon 200GEなら小型PCケースでACアダプター駆動でも楽に運用できるだろう。
さて、Athlonの欠点のひとつとして、NVMe SSDへの接続がPCI-Express 3.0 x4ではなくx2であるということは先に述べたが、実際にこれはどの程度影響するのだろうか?
そこでウエスタンデジタル製のM.2 NVMe SSDである「WDS100T2X0C」を準備し、D:ドライブとして初期化。「CrystalDiskMark」で読み書き性能を計測してみた。Athlon環境で利用したマザー(Fatal1ty B450 Gaming K4)は2本のM.2スロットがあるが、CPUに近い方に接続している。
接続バスが半分になるのだから最新NVMe SSDの読み書きも相当遅くなる……と思いきや、結果はほぼ同じ。一番バス帯域を消費すると思われるシーケンシャルリード・ライトもほぼ同じだ。Athlon 200GEクラスのPCに現在最高速クラスのSSDを組み合わせることがあるのかという問いはともかく、帯域が半分になったとしても現行のSSDでは全く気にする必要はない、といえるだろう。
ファンレス駆動に挑戦
Athlon 200GEの絶対的な性能は価格なりといったところだが、7000円で買えるCPUとしては非常にコスパが良いといえる。
ではTDP35WのAthlon 200GEは、どの程度発熱するのだろうか? TDP35Wなのだから大型空冷クーラーを組み合わせれば、ファンレス運用もできるのではないか?
そこで今回は、Thermalright製のサイドフロークーラー「Macho 120 Rev.A」を装着、ただしCPUクーラーのファンは接続しない状態で動かしてみた。テスト環境はバラック組みであり、室内はエアコン(27℃設定)で起こる気流はあるものの、PCには直接当たらないという環境に置いてみた。
まずAthlon 200GE付属のクーラーの性能計測も兼ねてOCCTのPower Supplyテストを約30分回してみた。CPU温度は「HWiNFO」で“Tctl/Tdie”の値を追跡した(Ryzen上位モデルと違い、Tdieにオフセット値を加えてTctlにする仕様ではないのだ)。ファンありが純正クーラーを使用した場合、ファンなしが「Macho 120 Rev.A」を取り付け、ファンなしで動かした場合の推移だ。
さすがTDP35Wだけあって、あの小さなリテールクーラーでも50℃台にとどまる。ファンレスにするとさすがに91℃まで上昇するが、温度上昇カーブは非常に緩やかで、負荷開始から17分経過しないと90℃に到達しない。
下のグラフは、「Macho 120 Rev.A」のファンなしでOCCTのテスト実施前と後に10分程度のアイドル時間を入れて計測したものだ。
システム起動直後だとアイドル時で30℃台前半、負荷を解除した直後は70℃弱だが、ゆるやかに50℃以下へ下がっていく。Macho120でも完全ファンレスとするにはやや物足りないが、上手くファン停止のできるマザーボードと組み合わせることで小型でも超静音PCが組めるだろう。
ファンレス運用PCで思いつくのは動画鑑賞PCだ。Athlon 200GEでもYouTubeの4K動画は特別フレームドロップなく再生することができた。ついでに再生中のCPU温度とCPUクロックの推移も追跡したのが下のグラフだ。
ファンレスでの再生でも、温度は40℃台前半で安定している(終盤急激に下がったのは再生が終わったため)。これならファンレスに近い状態でも動画再生用PCとして運用できそうだ。
まとめ:コスパは抜群。この商機を活かすことができるか?
以上でAthlon 200GEの簡単なベンチマークは終わりだ。Pentium Gold G5500に比べCPUの絶対的なパワーには劣るものの、ライトな作業には問題ない程度の性能は持っている。そしてその分若干GPUをリッチにしたCPUと考えれば、コスパは非常に良い。CPUパワーはPentiumに一歩譲るところがあるが、CPUパワーをライトユースに十分な性能に抑え、その分GPUパワーに“リバランス”した製品になったと言えるだろう。
720pとはいえなんとかPCゲームが遊べる程度なので、Athlon 200GEがピッタリはまるのは、動画鑑賞用PCを組みたいとか、TV録画PCを今どきのハードにしたいとか、低負荷でトロトロ回すような用途だろう。もちろんSNSや調べ物用といった典型的“ライトユース”向けだ。
さて折しもインテル製CPUは世界的にショート気味になっている。10nmプロセスへの移行に陰りがさし、現行14nmプロセスにとどまる決断をした結果でもある。このAthlon 200GEは名実ともにPentium市場を奪える絶好のCPUなのだ(もちろんRyzenもCore iキラーであるが)。また、よりCPUパワーが必要であれば4500円ほど追加し、Ryzen 3 2200G(実売1万2300円前後)を購入すれば、CPUだけでなくGPU性能も向上。低価格ながら、よりゲームをリッチな設定でプレイできる。
この商機をいかに活かし、シェア拡大に繋げられるか? 今インテルが有効な対抗手段を持たぬ今、AMDは今攻勢に出るべきだろう。AMDのこれからの頑張りに期待したい。