2018年11月15日23時(日本時間)、AMDは“Polaris 30”として噂されていた新ミドルクラスGPU「Radeon RX 590」を正式発表した。型番から分かる通り最新のVega系列(第5世代GCN)ではなく、Polaris系列(第4世代GCN)のプロセスを14nm FinFETから12nm FinFETにシュリンクして再設計した製品となる。
ライバルがレイトレーシング(DXR)だGDDR6だ、4K&HDRゲーミングだと攻め手を緩めぬ最中になぜミドルクラスへ新製品を投入するのか? と思ってしまうところだ。
だがPCゲーマーの大半はフルHD液晶を使い、3人にひとりのゲーマーは200〜400ドルのGPUを使い、さらに2年以上GPUを更新していないユーザーもまだまだ存在するという現実がある(AMDの弁による)。つまり旧世代GPUからより付加価値の高いモダンなGPUへ乗り換えを促す製品が必要なのだ。
これに対するAMDの解答が、今回紹介するRX 590なのである。1世代前のRX 580は壮絶な仮想通貨マイニング需要の前に、一時期市場から姿を消していたという経緯がある。しかし、仮想通貨バブルの弾けた今、RX 590の登場は準ハイエンドGPUに手が出ないゲーミング需要を満たすものと期待される。
今回はASRock製のRX 590搭載カード「Phantom Gaming X Radeon RX 590 8G OC」の評価版を試用する機会に恵まれた。果たしてRX 590は再びゲーマーを導く極星に返り咲けるのだろうか?
プロセスシュリンク以外、新規要素はなし
ではRX 590のスペックを確認してみよう。SP2304基、GDDR5メモリーを8GB搭載し帯域256bit……と、基本的な部分はRX 580をそのまま継承しているが、ブーストクロックが1340MHz→1545MHzと200MHz以上引き上げられている。
この躍進はプロセスルールがシュリンクされたことによるもの。既にAMDは次期製品で7nm突入を表明しているが、それがまだ使えないので12nm FinFETプロセスで手堅く攻めた、といったところだろう。ただクロックが上昇したぶんTDPは185W→225W(補助電源8ピン×1で養える最大値)へ大幅に増加している。以下スペックの補助電源部分は筆者の推測を含む。
主なスペック | |||
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Radeon RX Vega56 | Radeon RX 590 | Radeon RX 580 | |
製造プロセス | 14nm FinFET | 12nm FinFET | 14nm FinFET |
Compute Unit数 | 56基 | 36基 | |
→ストリーミングプロセッサー数 | 3586基 | 2304基 | |
ベースクロック | 1156MHz | 1469MHz | 1257MHz |
ブーストクロック | 1471MHz | 1545MHz | 1340MHz |
テクスチャーユニット数 | 256基 | 144基 | |
ROP数 | 64基 | 32基 | |
メモリークロック(相当) | 1.6GHz | 8GHz | |
メモリータイプ | HBM2 | GDDR5 | |
メモリーバス幅 | 2048bit | 256bit | |
メモリー搭載量 | 8GB | ||
Board Power | 210W | 225W | 185W |
補助電源 | 8ピン×2 | 8ピン? |
GTX 1060&1070を比較用に用意
では今回の検証環境を紹介しよう。比較対象としてRX 590の上と下、つまりVega 56とRX 580、さらにライバル機として、GTX 1060 6GB版とGTX 1070をそれぞれ準備した。
スペックや製品の位置づけ的にRX 590の性能は、Vega 56未満RX 580以上、またはGTX 1070未満GTX 1060以上のどこかになることは明らかだが、どの程度上位GPU側に着弾するのか見ていきたい。
ただ今回のRX 590カードはテストできる時間的制約上、AMDのプレス向けドライバー(18.11.6)の提供が間に合わず製品に同梱されているドライバー(18.8.1)で検証している点を強調しておきたい。RX 590本来の性能からやや下の性能を示している可能性あり、という点を頭に置きつつこの後の検証に進んで頂きたい。
【検証環境】 | |
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CPU | インテル「Core i9-9900K」(8コア/16スレッド、最大5GHz) |
マザーボード | GIGABYTE「Z390 AORUS MASTER」(Intel Z390) |
メモリー | G.Skill「F4-3200C14D-16GTZR」(DDR4-3200 8GB×2、DDR4-2666で運用) |
グラフィックス | AMD「Radeon RX Vega 56リファレンスカード」、 ASRock「Phantom Gaming X Radeon RX590 8G OC」(Radeon RX 590)、 ASRock「Phantom Gaming X Radeon RX580 8G OC」(Radeon RX 580)、 NVIDIA「GeForce RTX 1070 Founders Edition」、 ASUS「ROG STRIX RTX1060Ti-O6G-GAMING」(GeForce GTX 1060) |
ストレージ | WesternDigital「 WDS100T2X0C」(M.2 NVMe SSD、1TB)、Crucial「CT1050MX300SSD4/JP」(M.2 SATA SSD、1.05TB、データ用) |
電源ユニット | SilverStone「SST-ST85F-PT」(850W、80PLUS Platinum) |
OS | マイクロソフト「Windows 10 Pro 64bit版」(October 2018 Update) |
定番の「3DMark」で大雑把な性能序列をチェックしよう。テストは“Fire Strike”“Fire Strike Ultra”“Time Spy”“Time Spy Extreme”の4つを使用する。
RX 590のコンセプトどおり、Vega 56とRX 580の間にスコアーが着弾しているが、ややRX 580寄りの性能を示している。今回試したRX 580とRX 590カードのブーストクロック比は1:1.13だが、スコアーは1:1.05〜1.06とやや伸びていない印象があるが、この程度なら“よくあるケース”ともいえる。
ドライバーが新しければもう少し伸びた可能性もあるだろうが、今回そこまで踏み込めなかったのが残念だ。ただ、RX 590はRX 580の上位互換版であることは十分確認できた。GTX 1060に対しては確かな優位性を示しているため、魅力的なミドルクラスGPUといって良いだろう。
ではクロックが上昇したぶん、消費電力はどの程度増えたのだろうか? ラトックシステム「REX-BTWATTCH1」を用い、システム起動10分後を“アイドル時”、3DMarkの“Time Spy”デモ実行中のピーク値を“高負荷時”として測定した。
RX 590が単なるプロセスルールのシュリンク版なら消費電力は下がったと予想されるが、実際には大幅なクロック上昇も伴っている。そのため高負荷時の消費電力もRX 580に対し30W以上増えている。
これは順当な結果といえるが、今後Radeonがワットパフォーマンスを改善するには、GCNの根本的な見直しが必要であることは間違いない。
ただCore i9-9900Kを含めて300Wを超えていないため、今どきの600Wクラスの電源ユニットであれば問題なく養える、という点は覚えておきたい。
では実ゲームベースのベンチマークを試していこう。まずはeスポーツ系タイトルの代表として「Rainbow Six Siege」を試す。画質は“最高”とし、ゲーム内ベンチマーク機能を使用する。シーン別にフレームレートが計測されるが、ベンチマーク全体の最小/平均/最大フレームレートを比較する。
1ページめに掲げたAMD資料によれば、RX 590はこのゲームをフルHDで120fps以上出すことを目標にしており、今回の検証でも見事それを達成できている。RX 580ユーザーが乗り換えるほどパフォーマンスは伸びていないが、RX 470より前、あるいはGTX 970より旧世代GPUから乗り換えるには丁度いい感じのGPUといえるだろう。
元々Rainbow Six Siegeは描画軽めのゲームなのでWQHDでも十分快適に動くが、4Kは論外。この辺はミドルクラスGPUであることを考えればむしろ当然といえる。
RX 580よりも確実に性能アップを示した!
続いてはもう少し描画の重めな「Forza Horizon 4」で試してみよう。動的画質調整機能は無効とし、プリセットの“ウルトラ”に固定。ゲーム内ベンチマーク機能を利用して計測しているが、GPU-最小/GPU-平均/GPU-最大はGPU側処理のフレームレート、実際にゲーム画面上で目にする平均フレームレートは“シーンAvg(リザルト画面上では“達成済み”と表示)”となる。
シーンAvgはAMDの掲げる“90fps以上”に微妙に届かなかったが、RX 580に比べクロックが上がったぶんしっかりフレームレートが伸びていることを示している。WQHDでも十分快適に遊べるが4Kではカクつき感が出る……という点も同じ傾向だ。4Kで快適に遊ぶにはVega 56より上のカードが必要になる。
フルHD環境で平均60fps以上を余裕でキープ
Forza Horizon 4もやや重い「PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS」でも試してみよう。画質は“ウルトラ”とし、マップ“Erangel”におけるリプレイ再生中のフレームレートを「OCAT」で測定した。
このタイトルではRX 590のターゲットはフルHDで平均60fps以上。RX 580でも十分達成できているが、クロック増によって若干フレームレートが上積みされている。
WQHD以上では索敵が重要なゲームの性質上見ていて辛さの方が先に立ってしまうので、フルHD環境でならRX 590は輝く。AMDのコンセプトどおりの性能に仕上がっている。
Far Cry 5はかなり厳しい
それではもうひとつ重量級として、AMD肝入りのタイトルである「Far Cry 5」でも試してみたい。画質は“最高”とし、内蔵ベンチマーク機能を利用して測定した。
このゲームもPUBGと同様フルHDで平均60fps以上を狙っているタイトルだが、ミドルクラスのGPUではフルHD環境でも30fpsそこそこが限界。
画質が最高設定だから、というせいもあるが、重量級ゲームで画質設定を盛りまくるタイプのユーザーにはRX 590は向かない、といったところか。
BFVは最高画質でも快適!
最後に検証時にちょうどプレオープン版が開放された「Battlefield V」でも検証してみた。APIはDirectX12、画質は“最大”とし、シングルプレイヤー用キャンペーン“Tirailleur”冒頭部からステージ最初の目標までプレイした際のフレームレートを「OCAT」でプレイした。
ただし本稿が公開された時には適用されているであろう“Day 1 patch”は適用外であること、さらにどのGPUドライバーも最適化が甘い状態である可能性が高い。ここでの結果はあくまで“プレオープン時のもの”であり、実際の製品版とは違う可能性があることを力説しておきたい。
テスト時のドライバーはRX 590より580の方が新しい(18.11.1)せいか、ところどころRX 590を580が上回ってしまう部分が見られるが、フルHD時の結果を見る限り、RX 590なら最高画質設定(ただしDXR不使用)で快適にプレイできることを示している。4KでGTX 1060のフレームレートが極端に低いのはこれだけVRAM搭載量が6GBと少ないためだ。
まとめ:なぜ今Polarisという気もするが、買い替え用には好適なGPU
GPUの技術動向が好きな人にとっては、今回のRX 590の投入は“なぜ今更”という感もあることだろうが、PCゲーマーの多くがフルHD&旧世代ミドルクラスGPUを使っているという現状を考えると、買い替え先として投入されたRX 590はとても理にかなった製品であるといえる。
設計部分に新規性は感じられないのは極めて残念だが、特にPolaris以前の“プレHDR世代”のGPU環境をモダンなディスプレイ環境に引き上げるだけのポテンシャルは持っている。欲をいえば、もう少しGTX 1070寄りの性能であって欲しかったのだが……。
後は値段の問題だ。ASRockのリリースによると、「Phantom Gaming X Radeon RX 590 8G OC」の店頭想定売価は3万4980円。そのため、GTX 1060に対してコストパフォーマンスで圧倒できるはず。
幸いにして今は仮想通貨マイニングブームが去っているため、マイナーに買い占めされる心配も少ない。Radeonファンでなくとも、フルHDでお手頃なゲーミングPC向けGPUが欲しいなら、RX 590は良いチョイスになるだろう。