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安い8コア/16スレッドCPUはCGレンダリングで光る?

Ryzen 7 2700XのCG分野における費用対効果を考察する

文● 加藤勝明 編集●ASCII編集部

CG作成用PCの入門向けCPUはコスパで選びたい

筆者がいつも新CPUをレビューする際は、様々なベンチマークを使っている。「この用途には強いが別の用途には弱い……」みたいな言い方をするが、今回はマルチコアCPUが最も得意とする“CGレンダリング”の性能に絞って考察してみたい。3DCGを学びたい人にとって必要不可欠なのが、CGのレンダリングをサクサク処理できる高性能PCなのだが、最速の性能が出せるCPUを狙えば当然コストもどんどん上がっていく。

現状コンシューマー向けPC用CPUでレンダリング最速と言えば、AMDの「Ryzen Threadripper 2990WX」だが、CPUだけで実売価格は22万円程度になる。しかし、入門向けのCGレンダリング用PCとしてはかなり高価な部類になる。そこで、最速ではないにしても費用対効果に優れているCPUを考えようというのが本稿の狙いだ。

Ryzen Threadripperの最上位モデル2990WXはかなりクセの強いCPUだが、CGレンダリングのような処理には滅法強く、ライバルのインテルも簡単に手が出せない領域にある。しかし、CPUは1基で22万円前後と高価だ。

Ryzen 7 2700Xは、Ryzen Threadripperよりもコア数が少ないぶん計算力は劣るが、そのぶん3万円台とグッとお手頃。マザーボードなどの周辺パーツも比較的安価に手に入るので、総合的なコストパフォマンスは高いのではないだろうか……?

なお、今回注目するCPUは実売価格3万8000円前後で手に入る8コア/16スレッドのCPU「Ryzen 7 2700X」である。そこで、2700Xにスペック的あるいは価格的に競合しそうなCPUを同列で比較し、費用対効果を比較してみる。

比較対象となりそうなCPUとしては、Ryzen 7 2700Xと同じ8コア/16スレッドの「Core i9-9900K」(実売価格6万6000円前後)と、価格的に非常に近い6コア/6スレッドの「Core i5-9600K」(実売価格3万4000円前後)が浮上する。ついでにCore i9とi5の中間の「Core i7-9700K」(実売価格5万1000円前後)や、第2世代Ryzen Threadripperで最もお手頃な「Ryzen Threadripper 2920X」(実売8万7000円前後)も比べておきたいところだ。

費用対効果をプラットフォーム全体で考える

また、CPUの単純な価格だけで費用対効果を比較するのはあまり実用的ではない。新PCを組むにあたって必要となるほかのハードウェアを調達する際の費用(OSは除外する)から、プラットフォームとしての費用対効果を考えるべきだろう。

そこで今回費用対効果検証の根拠となる費用を見積もっておこう。まずCPUとCPUに密接に絡むコアパーツ価格を以下の表のように見積もった。マザーボードはほぼ各プラットフォームにおける同格の人気モデルを選んだものとし、メモリーは8GB×4構成、各プラットフォームにおける定格最大クロックのモジュールを選択したものとする。

各CPUを使ったPCを組むと想定した場合、CPU&コアパーツのコスト。Ryzen 7 2700XとCore i5-9600Kの導入価格がほぼ同じである、という点に注目したいところ。

RyzenはメモリーがDDR4-2933なので微妙に高くつくが、マザーボードがインテル系よりやや安い。また、CPUクーラーが付属しているため、トータル価格はライバルより安く済む。インテル勢のCPUクーラーはWraith Prism相当の性能ということでざっくり5000円と見積もった。

また、Ryzen Threadripperはマザーボードも高価、CPUクーラー(280mmラジエーターの簡易水冷クーラーを想定)も割高という点から、Ryzen 7 2700Xの2倍近いコストがかかることがわかる。

今回はPCを1台調達するという想定なので、その他のパーツ予算も見積もっておきたい。下の表は“どのCPUを選んでも共通化できるもの”だ。GeForce GTX 1070クラスのグラフィックスボードに800W前後の電源ユニット、SSDは1TB程度のSATA SSD、PCケースはごくシンプルなもの、と想定して合計8万円程度と見積もった。

どのCPUを構成に入れても使える電源ユニットなどの共通パーツ部分。今回選んだインテル製CPUはGPUを内蔵しているので本来グラフィックスボードは不要だが、ソフトによってはCUDAやOpenCLなどの演算支援が使えるということで計上している。

コア部分と共通部分の価格を合算したものが、今回の費用対効果を算出するパラメーターとなる。費用はそのまま計算に使うとケタが多く扱いづらいので、費用は千円単位とし、本稿では“コスト”と呼ぶことにする。

各CPUの導入に伴う合計金額はコアパーツ部分と共通部分の合計となる。この後の費用対効果計算には合計金額を千分の1にした指標“コスト”を使用する。

同程度のスペックを備えたPCパーツの合計コストで考えると、Ryzen 7 2700Xは他のCPUよりかなり有利だ。唯一Ryzen 7 2700Xにコストで勝るのがCPU価格の安いCore i5-9600Kより微妙に高いがあちらは6コア/6スレッド。それに対し、Ryzen 7 2700Xは8コア/16スレッドとなる。コストが安くても果たして速度はどうか、という点も本稿での検討ポイントになる。

Threadripper 2920Xや第9世代Coreと比較

今回実際に各テストを実施した環境を紹介しよう。前掲のパーツ価格表と価格的に完全に合致しない部分もあるが、パフォーマンスに大きく影響せず、なおかつ使えるパーツは極力同じものを使っているのでご容赦頂きたい。ほぼ同じパーツ構成でCGレンダリング性能を計測し、それを想定したプラットフォーム別予算で費用対効果計算をする、という流れになる。

また、BIOS設定は基本的にファクトリーデフォルトを基準にしているが、ASUS製Intel Z390チップセット搭載マザーボードはデフォルトでは他社製マザーボードに比べてクロックが落ちやすい設定(VRMを過熱から護るためのもの)になっている。これを回避するためBIOSの「CPU Core Ratio」は“Per Core”に設定している。

検証環境:Ryzen 7プラットフォーム
CPU AMD「Ryzen 7 2700X」(8C/16T、3.7GHz〜4.3GHz)
マザーボード ASUS「ROG STRIX X470-F GAMING」(AMD X470、BIOS 4024)
メモリー G.Skill「F4-3200C14D-16GTZR」(DDR4-3200 8GB×2、DDR4-2666で運用)
ストレージ Intel「SSD 600p SSDPEKKW512G7X1」(NVMe M.2 SSD、512GB)
グラフィックスカード NVIDIA「GeForce GTX 1070 Founders Edition」
電源ユニット SilverStone「SST-ST85F-PT」(850W、80PLUS PLATINUM)
グリス Thermal Grizzly「Kryonaut」
OS Microsoft「Windows 10 Pro 64bit版」(October 2018 Update)
検証環境:Threadripperプラットフォーム
CPU AMD「Ryzen Threadripper 2920X」(12C/24T、3.5GHz〜4.3GHz)
マザーボード ASUS「ROG ZENITH EXTREME」(AMD X399、BIOS 1501)
検証環境:Intelプラットフォーム
CPU Intel「Core i9-9900K」(8C/16T、3.6GHz〜5GHz)
Intel「Core i7-9700K」(8C/8T、3.6GHz〜4.9GHz)
Intel「Core i5-9600K」(6C/6T、3.7GHz〜4.6GHz)
マザーボード ASUS「ROG STRIX Z390-F GAMING」(Intel Z390、BIOS 0602)

では実際どのようにCGレンダリングをさせた場合、どの程度の費用対効果になるのかを検証していきたい。

費用対効果を“見える化”してみる

いつもはCPUの馬力比較をするために使っている「CINEBENCH」だが、このベンチマークのコア部分はCG作成ソフト「CINEMA 4D」と共通のものを使っている。まずはCINEBENCHのスコアーを単純に比較しよう。

「CINEBENCH R15」のスコアー。

まずはおなじみのスコアー比較。最速は12コア/24スレッドのThreadripper 2920X、次いで8コア/16スレッドで全コア動作時4.7GHzのCore i9-9900Kとなる。同じ8コア/16スレッドでもRyzen 7 2700Xはクロックが低めなので、3番手につけている。CPU同コア数対決ならRyzen 7 2700XよりもCore i9-9900Kのほうが速く、CPU価格基準ならCore i5-9600Kはもちろん、格上のCore i7-9700KよりもRyzen 7 2700Xのほうが優れている。

次に費用対効果の比較だ。CGレンダリング速度の指標となるマルチコアテストのスコアーを前掲のコストで割り、千円あたりのスコアーを計算してみたい。

「CINEBENCH R15」の費用対効果。マルチコアテストのスコアーをコストで割った値。数字が大きいほどコストパフォーマンスが優秀ということになる。

Threadripperはコア数が多いぶんスコアーも高いが、導入コストが高いため単純な費用対効果はいまひとつ。“時間”という他に代えがたいものとトレードオフにするなら出費も厭わない、という層は別として、CGレンダリングの単純な費用対効果においてThreadripperはあまり優秀とは言えない。

そして絶対的なスコアー面でRyzen 7 2700Xを下したCore i9-9900Kだが、こちらもCPU価格が高いためThreadripper並みという印象すらある。Core i9-9900Kと比較すると案外Threadripper 2920Xは悪くない気もする。

だが、CINEBENCHにおける費用対効果でトップは僅差でRyzen 7 2700Xとなった。Core i9-9900Kよりもスコアーは低いが、費用対効果計算では決して悪い選択ではないのだ。

「Blender」は速度重視なら9900K、コスト重視なら2700X

次に試すのは「Blender」だ。公式サイトからダウンロードできる“pavilion_balcelona”及び“barbershop_interior”、そして“Gooseberry”を使用し、最初の1フレームをレンダリングする時間のみを計測した。

無料で利用できるCG作成ソフト「Blender」。今回検証に使用したファイルは最初の1フレームのみをレンダリングした。

「Blender」1フレームのレンダリング時間。

ここでもThreadripper 2920Xが最も短時間で処理を終え、続いてクロックの高いCore i9-9900K、そしてRyzen 7 2700Xと続く。SMT(HT)のないCore i7-9700KとCore i5-9600Kは全般的に遅い印象だ。

次に費用対効果の算定だが、コストを横軸、処理時間(秒単位)を縦軸にプロットし、グラフのどのあたりに落ちるかで検討してみる。X軸とY軸ともに原点に近いほうが優秀ということになるが、ここではそのバランスを見てみよう。

「Blender」の費用対効果。

まずCore i5-9600KはコストこそRyzen 7 2700Xを僅差でかわしトップ(X座標が一番左にある)に立っているが、論理コア数が少ないため処理時間(Y軸)が上に長く伸びやすい。特に処理の重いGooseberryでは安くあがるものの時間がかかりすぎる。そう考えると、テストごとにプロットした3つの点がタテに小さくまとまっており、なおかつ左のほうにあるCPUがコスパに優れていると考えることができる。

この観点ではCore i9-9900KとRyzen 7 2700Xは近しい傾向のCPUであると言えるだろう。絶対的な処理時間を選ぶならCore i9-9900Kだが、コストとのバランスを取るならRyzen 7 2700Xも決して悪くない。

「V-Ray Benchmark」でも2700Xのコスパは優秀

続いては「V-Ray Benchmark」で試してみる。CPUとCUDAを利用したレンダリングを選択できるが、今回はCPUのみの速度を比較した。なお、インテル製CPUでグラフィックスボードを追加したのはこういうソフトもあるためだ。

レンダリングのみを専門に受け持つソフト「V-Ray」のベンチマーク版が「V-Ray Benchmark」だ。

「V-Ray Benchmark」によるCPUレンダリング時間。

トップはここでもThreadripper 2920Xだが、2番手のCore i9-9900Kとの差はわずか11秒。そして、その10秒後にはRyzen 7 2700Xが続く。コア数とクロックなりの結果だと言えるだろう。ではV-Rayもコストと処理時間でプロットしてみよう。

「V-Ray Benchmark」の費用対効果。

コア数が少なく極端に遅いCore i5-9600Kと、コストが高くつくThreadripper 2920Xを除いた3CPUが費用対効果のバランスが良いCPUと言える。クロックの高いCore i9-9900Kには処理時間的にやや劣るが、コストが安くつくRyzen 7 2700Xはこのベンチマークにおいて優秀な選択肢と言える。

「Houdini Apprentice」でも2700Xのコスパが光る

最後にレンダリングとは厳密に違うが、プロシージャル型のCG作成ソフトである「Houdini」でも試してみよう。今回は無料で利用できる「Houdini Apprentice」を使用した。多数の粒子(70万程度)で構成された玉を平面に落とすシーンを作成し、50フレーム後の状態をCPUで計算させた時の時間を計測する。計測には内蔵パフォーマンスモニターを使用した。

「Houdini」におけるテスト風景。多数の粒子で構成された玉が落ちて散らばる様子をCPUで計算させる。

「Houdini Apprentice」における演算結果。

CPUクロックの影響が高い作業のようで、Core i7-9700KとRyzen 7 2700Xの処理時間はかなり近い。ややインテル系CPUに有利なテストと言えるだろう。そして、BlenderやV-Rayと同様に費用対効果をプロットしたのが次のグラフだ。

「Houdini」における費用対効果。

処理時間でCore i7-9700Kに詰め寄られたRyzen 7 2700Xだが、それでもコストでアドバンテージを保っている。

まとめ:Ryzen 7 2700Xはベストではないがベターな選択

今回は4本のCG関連のベンチマークでRyzen 7 2700Xの費用対効果を検証した。同じ8コア/16スレッドのCore i9-9900Kは確かに速いが、CPUの入手性に未だ難を抱えており、さらに実売価格もRyzen 7 2700Xよりはるかに高い。費用対効果(これも計算次第な部分はあるが)的に言えば、Core i9-9900Kは高いなりに速く、その一方でRyzen 7 2700Xも割安なぶんやや遅い。つまりは調達価格を安く抑えようと考えるならとても良い選択肢になりえるのだ。

他のCPUに目を向けてみると、Core i7-9700Kは高い割に処理性能は中途半端。そして、Ryzen 7 2700Xと実売価格が近いCore i5-9600Kは、ことCGレンダリングにおいては性能的にお話にならない。

また、Threadripper 2920Xはコストよりも時間が重要という人には非常に良いCPUだ。とりあえず2920Xにしておいて、さらに性能がほしければ2990WXへのステップアップができる。費用対効果であればRyzen 7 2700X、アップグレードパスを含めた馬力の伸びならThreadripperと使い分けるのが良さそうだ。


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