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消費電力でわかるSenseMIテクノロジーの優秀さ
では消費電力の検証に入ろう。ラトックシステム「REX-BTWATTCH1」を使い計測した。アイドル時はシステム起動10分後の安定値だが、高負荷時は「Prime95のSmallFFTの実行中の最大値」と「Blenderレンダリングテスト時の最大値」の2種類を比較する。SmallFFTテストは消費電力や発熱的にワーストケースであるとされているが、実はRyzenでは必ずしも当てはまらないからだ。
まず驚くべきはCore i9-9900KSとCore i9-9980XEの消費電力の高さと、Ryzen勢の消費電力の低さだ。これはインテル製CPUはパワー限界までとにかくアクセルを踏む設計なのに対し、Ryzen勢はPPT/TDC/EDCといったパラメーターの枠を絶対に外れないように制御しているため、こういう差になっている。
おもしろいのはRyzen 9 3950Xの高負荷時の消費電力は、SmallFFT実行時よりもBlenderでレンダリング中の方が大きいこと。CPUの負荷的にはSmallFFTの方がはるかにヘビーだが、SmallFFTの負荷が高すぎるゆえにCPUの出力が絞られてしまうようだ。
そこで「HWiNFO」を利用して、Ryzen 9 3950Xに超高負荷をかけた時の挙動を調べてみた。下のグラフはBlenderとPrime95の消費電力計測時における「CPU+SoC Power」「クロック」「平均実効クロック」「tCtl(UEFIなどから取得する値)/tDie(実際のダイ温度)」の推移(処理開始〜5分程度)をそれぞれグラフ化したものだ。ここでは再度Ryzen 9 3950XのEcoモードにおける挙動の違いもチェックする。
まずはRyzen 9 3950Xが消費している電力がつかめる「CPU+SoC Power」の推移だが、デフォルト状態ではPrime95よりもBlenderの方がより多くの電力を消費している点に注目。つまりSmallFFTは処理負荷が重すぎる(もしかするとRyzenの設計に合致しない)ため、CPUのパワーが極端に制限されてしまうことを意味している。つまりRyzen 9 3950Xの消費電力や発熱を見る上でPrime95のSmallFFTは適さないという知見が得られた。
また、EcoモードにするとBlenderでもPrime95でも24〜27W程度に制限される。これがTDP65W制限の効果であることは明らかだ。
次はクロックだ。実測クロックはCore#0(テスト個体における一番高性能なコアと一致)の推移を追いかけるとともに、HWiNFOの最新β版(ビルド3990)で追加された“平均実効クロック”(16コア分)も追跡した。平均実効クロックとは耳慣れない用語だが、タスクマネージャーで4GHzと表示されるのがここでいう実測クロックであるのに対し、CPUの負荷やアイドル時間を考慮にいれたのが実効クロックとなる。処理負荷が高い場合は実測と実効はほぼイコールになるが、Blenderのレンダリング開始直後のように処理負荷が低い時は実効クロックは低くなる。
ここでもPrime95時は実測実効ともに3GHzちょっとで横ばいになるが、Blenderのレンダリング時は3.95GHzあたりで安定している。処理負荷に応じてCPU+SoC Powerが変化し、それがクロックにも影響している。また、Ecoモード時のCPU+SoC Powerはほぼ同レベルだったが、実測&実効クロックはBlenderの方が1.5GHz近く高くなっている点にも注目したい。
最後はCPUの温度だ。HWiNFOだとCCDごとの温度情報も読み取れるが、tCtl/tDieはCPU全体の温度管理に使われる情報なので、こちらを採用した。低負荷時はCCD温度はtCtl/tDieより下(状況にもよるが、落差は最大10℃程度)だが、高負荷になるとCCDとtCtl/tDieはコンマ数℃の差にまで縮まる。
この温度推移でもCPU+SoC Powerがより高くなる状況ほどRyzen 9 3950XのtCtl/tDieが高くなることが分かる。Blenderのレンダリング時は最高64℃なのに対し、Prime95のSmallFFT時は57℃前後でほぼ横ばい。一方Ecoモードにすると50℃程度に抑え込まれる。Ryzenに組み込まれたSenseMIテクノロジーの凄さが再確認できる結果となった。
まとめ:紛れもなくCPU史の特異点。懸念材料は価格よりも供給量
今回はいつになく検証時間が厳しく、もっと多岐に渡るテストを実施したかったが、Ryzen 9 3950Xのパフォーマンスの凄さが十分に感じられた。16コア32スレッドのパワーは特にクリエイティブ系の作業で存分に発揮された。前回の速報時でも触れた通り、同じSocket AM4プラットフォームで2コア4スレッドから16コア32スレッドまで、予算や用途に応じて性能を自在にスケールさせることができる柔軟性はライバルの追従を許さない。今は4コアや6コアのRyzenで我慢しても、いずれ最大16コアまでパワーアップできるというのは、アマチュアのクリエイターにとって大きな助けとなるだろう。
だが同時にゲーミングに関しては既存のRyzen 7 3800XやRyzen 9 3900Xの方が性能が出やすい傾向が確認された。コア数を増やしてもTDP105Wの枠に留めた結果なのか、16コアもあるのにメモリーコントローラーは1基のみというアンバランスさにあるのかまでは今回は確認できなかったので、今後の課題としたい。さらにOBS等でメガタスク状態にした時のパフォーマンスなど、検証すべきネタはまだ残っている。あくまでゲーム単体の性能は若干劣る、というだけだ。
圧倒的性能がメインストリーム向けマザーで使えるRyzen 9 3950XはCPU史上の特異点というべき存在になった。パワーが何より欲しい人、メインストリーム向けCPUで最高のものが欲しい人には間違いなくオススメだが、最大4.7GHzまでブーストできて8コア全部使えるCCDはかなりの良品であることは間違いないので、Ryzen 9 3900X以上に製品の流通量が限られるだろうと筆者は考えている。AMDがどれだけ市場のニーズに応えられるかに期待したい。