※この記事はASCII.jpからの転載です(文中リンクはASCII.jpの記事に飛ぶことがあります)
消費電力はほぼ変わらず
Ryzen 5000シリーズは性能が劇的に向上したが、消費電力はどうだろうか? そこでラトックシステム「REX-BTWATTCH1」を用い、システム起動10分後の安定値を“アイドル時”、「Prime95」のSmallFFT実行中の最大値を“高負荷時”として計測した。
Ryzenの場合、高負荷をかけるとクロックが押さえ込まれるため一定以上はなかなか上がらない。Ryzen 5000シリーズも同じ電力管理手法であるため、コア数が同じRyzen 3000XTシリーズと消費電力に差はないといってよい。消費電力の多さでいえばインテル製CPUの高さが際立っているが、このグラフの値はTauの制限56秒以内に観測された最大値であって、これを超えると190W程度までに一気に下がる。
瞬間的な値を見ればインテル製CPUはだいぶワットパフォーマンスが悪いが、長い目で見る(例えばエンコード)なら実は大して変わらない。ただマザーボードのBIOS設定次第(PL1=無制限)ではこのグラフの最大値がずっと継続するので、そのような設定を採用する場合は、Ryzenのワットパフォーマンスは圧倒的強みとなることは間違いない。
コア間レイテンシーを確認する
最後に「Sandra」を使って新旧Ryzenのコア間レイテンシーがどう変化したかを視覚的に明らかにしていきたい。具体的にはCPUの「マルチコアの効率」テストを実施し、そこで算出される論理コア同士のレイテンシーを書きだしている。Sandraのテストでは一方向のレイテンシーしか計測しない(論理コア1→3が計測されたら3→1は省略される)ため、逆方向のレイテンシーは順方向と同じ値として扱っている。
例えば論理コア0(縦列)から論理コア1へのアクセスは10.9nsと極めて速く(同じ物理コア内の論理コアなので速くて当然)、論理コア0→論理コア2~7までは26.7ns~27.6nsまでとやや長くなる。しかし、宛先が論理コア8~15になると70以上の値が当たり前になる。
Ryzen 7 3800XTの場合、論理コア0から見て論理コア7までが同じCCX(4コア)内のアクセスとなり、論理コア8~15が隣のCCXに所属するコアになるので、レイテンシーが一気に増える。ある論理コアから見てレイテンシーの長いコアと連携する場合は処理時間が長くなるのも当然といえる。
ところがRyzen 5800Xでは、どの論理コアから見ても30ns以下でアクセスできたことがこの図に示されている。各レイテンシーの値は試行ごとに上下に変動するが、平均としては25ns程度に収まっている。
CCXが8コア化してレイテンシーが下がったことがこの図でも確認できた。ただ同物理コアに属する論理コア同士のレイテンシー(緑のマスの部分)はRyzen 7 3800XTよりも微妙に長くなっており、全てが改善した訳ではないことも分かる。
今度はRyzen 9 3900XTのレイテンシーマップだが、2CCD構成になったことでオレンジのマスの数が一気に多くなった。24×24-24=552通りのアクセスパターンがあったとき、大半のアクセスはレイテンシーの長い組み合わせになってしまう。
OS側でそういった非効率なアクセスにならないよう仕事を割り振ってくれる仕組みがあるとはいえ、CCXとCCDまたぎでレイテンシーが長くなってしまうRyzen 3000/3000XTシリーズの弱点は無視できない。
ところがCCD=CCXとなったRyzen 9 5900Xでは、30ns以下でアクセスできる組み合わせが劇的に増えた。もちろんCCDをまたぐアクセス(例:論理コア0→論理コア12〜23まで)の場合はレイテンシーが長くなることを避けられないが、Ryzen 9 3900XTに比べると明らかに効率が良くなってたことが分かる。
まとめ:Ryzen 7 5800Xの凄さが際立つ
以上でRyzen 5000シリーズの速報レビュー1回目は終了だ。冒頭で述べた通りAMDの要請によりRyzen 9 5950XとRyzen 5 5600Xは検証できなかったが、クロックもTDPもほとんど変えずに凄まじい性能向上を果たしたZen3アーキテクチャーの凄さを再認識させられた。
特にコア数が格上のCore i9-10900Kどころか、処理によってはRyzen 9 3900XTや5900Xをも上回ったRyzen 7 5800Xの凄さが際立つ結果となった。TDP65WのRyzen 7 5700Xがまだ出ていない(現時点では予定があるかも不明だが……)が、もしTDP 65WのRyzen 7 5700Xが先に出ていたら、ここまでのインパクトは得られなかったのではないだろうか。
インテルのメインストリーム向けのフラッグシップに対し有無を言わさぬ性能差を見せつける(残念ながら完封勝利には至らなかったが……)ためには、TDP 105Wで性能が出しやすいRyzen 7 5800Xを出す方が得策とAMDは判断したのだろう。
「お前(インテル)を負かしたのは既存の7nmプロセスなのだ……お前が2021年に次のステージに進もうとも、我々はまだ5nmを残している……」というAMDの挑発が聞こえてきそうな新製品といえるだろう。
次回(Ryzen 5000シリーズ販売解禁後)は、残された2モデル(Ryzen 9 5950XとRyzen 5 5600X)を検証する予定だ。こちらもお楽しみに。