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1月26日、AMDはCezanne(セザンヌ)シリーズの詳細に関して情報を公開したが、その詳細はKTU氏が解説しているのでこちらを参照いただくとして、その他の話題を三題噺形式で紹介しよう。
記録的な売り上げだった2020年
Cezanneシリーズの詳細を公開したのと同じ1月26日、AMDは2020年第4四半期決算、および2020年通期の決算を発表したが、なかなか壮絶なものになった。決算のプレゼンからいくつか紹介すると、まず四半期あたりの売上は前年の21億3000万ドルから5割以上増えた32億4000万ドル、年間の売上は2019年の67億3000万ドルから97億6000万ドルと、売上が100億ドル目前というところまで達した。
直近5年間の主要な数字をまとめたのが下表であるが、毎年10億ドル以上売上を増やすとともに粗利率を目覚ましく改善させており、2018年からは黒字転換も果たす。
AMD直近5年間の決算内容 | ||||||
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年度 | 2020 | 2019 | 2018 | 2017 | 2016 | |
売上高 | 97億6300万ドル | 67億3100万ドル | 64億7500万ドル | 52億5300万ドル | 43億1900万ドル | |
粗利益 | 43億4700万ドル | 28億6800万ドル | 24億4700万ドル | 17億8700万ドル | 10億300万ドル | |
粗利率 | 45% | 43% | 38% | 34% | 23% | |
営業利益 | 13億6900万ドル | 6億3100万ドル | 4億5100万ドル | 1億2700万ドル | -3億7300万ドル | |
営業利益率 | 14% | 9.4% | 7% | 2.4% | -8.6% | |
純利益 | 24億9000万ドル | 3億4100万ドル | 3億3700万ドル | -3300万ドル | -4億9800万ドル |
その2019年は営業利益こそ増えたものの2020年に向けた仕込みや長期負債の一挙軽減もあって純利益などは2018年と変わらない程度だった。これが2020年はいきなり25億ドル近くまで増えており、実に7倍である。
売上高と営業利益に関しては部門別にも示されており、こちらを見てみるとまずComputing and Graphics、つまりCPUとGPUは売上がこの5年間で3倍以上に伸び、営業利益も-2.5億ドルから12.6億ドルまで急速に改善しているのがわかる。
AMD直近5年間の部門別売上高 | ||||||
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年度 | 2020 | 2019 | 2018 | 2017 | 2016 | |
Computing and Graphics | 64億3200万ドル | 47億900万ドル | 41億2500万ドル | 29億7700万ドル | 19億8800万ドル | |
Enterprise, Embedded and Semi-Custom |
33億3100万ドル | 20億2200万ドル | 23億5000万ドル | 22億7600万ドル | 23億3100万ドル |
AMD直近5年間の部門別営業利益 | ||||||
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年度 | 2020 | 2019 | 2018 | 2017 | 2016 | |
Computing and Graphics | 12億6600万ドル | 5億7700万ドル | 4億7000万ドル | 9200万ドル | -2億4300万ドル | |
Enterprise, Embedded and Semi-Custom |
3億9100万ドル | 2億6300万ドル | 1億6300万ドル | 1億3200万ドル | 2億8700万ドル | |
その他 | -2億8800万ドル | -2億900万ドル | -1億8200万ドル | -9700万ドル | -4億1700万ドル |
ここで大きな貢献はもちろんRyzenであろうが、2019年と2020年はNAVIベースのRadeon RXシリーズもそれなりに貢献したものとしていいだろう。また、特に部門別営業利益を見て思うのは、2016年を乗り切れたのはEnterprise, Embedded and Semi-Customのお陰であるが、この当時だから要するにPS4とXbox Oneであって、これがなかったら2017年以降のAMDにはつながらなかった気もする。
そういう意味では間一髪で間に合ったという話ではあるのだが、そもそもSu氏が2012年にCOOとしてAMDに入社して最初の仕事が当時のソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)とマイクロソフトにAMDベースのSoCを売りに行ったことだそうで、これをまとめたSu氏がCEOになったのはある意味必然だったわけだ。
半導体企業として粗利率45%は「普通の会社」であるが、逆に言えばAMDはこれまでその普通の会社たり得なかったわけで、やっと普通の会社になったというべきか。もっともライバルであるインテルはここ数年不調と言われつつ、2020年度の売上高は778億6700万ドル、粗利率は56%に達する(ちなみにこれでも落ちた方で、2018年と2019年の粗利率はそれぞれ61.7%、58.6%だった)。
インテルの純利益は208億9900万ドルであり、売上高で8.0倍、純利益で8.4倍に達しており、まだ追いつくには相当時間がかかることは間違いない。
ちなみにAMDは昨年のFinancial Analyst Daysで、今後の会社のロードマップを示した話はご紹介した通りである。成長率などを1年で議論しても仕方ないのでおいておくとして、粗利益の50%以上はまだ達成できていないし、営業利益率は2020年でも14%なので、目標の20%台にはもう少しがんばる必要がある。その意味では引き続き同社というかSu CEOはアクセルを踏み続けるであろう。
余談だが、AMDは2019年と2020年、それと今年で負債の大半を片付ける予定である。下の画像が負債の一覧であり(単位は100万ドル)、項目は以下のようになっている。
負債項目 | ||||||
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Term debt | 長期借入金 | |||||
Aggregate interest obligation | 有利子負債 | |||||
Other long-term liabilities | その他の長期債務 | |||||
Operating leases | リース費用 | |||||
Purchase obligations | 購入債務 |
現時点でトータル38億6700万ドルほどであるが、純利益で25億ドル近くを確保している現在の財務状況からすれば、これを償却するのはそう難しくないと考えられる。こうした債務がなくなれば、その分を利益やフリーキャッシュフローに回せるので、昨年公開されたロードマップの実現はそう遠くないかもしれない。