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歴代8コアモデルで一斉比較
では、今回の検証環境を紹介しよう。前述の通り、今回は初代~最新Ryzenの物理8コアモデルを準備し、横並びでベンチマークを行なう。ただし、Ryzen 7 1800Xに対する1700X/1700のような廉価版モデル、Ryzen 7 3800Xに対する3800XTのようなマイナーチェンジモデルは時間の都合上割愛した。各世代のRyzenのローンチに合わせて投入された物理8コアの最上位モデルだけ比較する、ということだ。
メモリーやストレージなどのパーツは統一しているが、初代RyzenのマザーのみB450を、それ以外は最新のX570とした。B450で統一しても良かったが、最新RyzenとGPUの機能を全て活かすにはX570のほうが適当だろうと考えていたからである。ビデオカードはRadeon RX 6800 XT(RX 6800 XT)とし、可能ならばResizable BAR(AMDでいうところのSmart Access Memory)も有効にした。また、メモリークロックは各世代の定格最大クロックにあわせている。
【検証環境】 | |
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CPU | AMD「Ryzen 7 5800X」 (8コア/16スレッド、3.8~4.7GHz)、 AMD「Ryzen 7 3800X」(8コア/16スレッド、3.9~4.5GHz)、 AMD「Ryzen 7 2700X」(8コア/16スレッド、3.7~4.3GHz)、 AMD「Ryzen 7 1800X」(8コア/16スレッド、3.6~4.0GHz) |
CPUクーラー | Corsair「iCUE H115i RGB PRO XT」 (簡易水冷、280mmラジエーター) |
マザーボード | ASRock「X570 PG Velocita」(AMD X570、BIOS L1.64)、 ASRock「B450M Steel Legend」(AMD B450、BIOS 3.90) |
メモリー | G.Skill「Trident Z RGB F4-3200C16D-32GTZRX」 (DDR4-3200、16GB×2)×2 |
ビデオカード | AMD「Radeon RX 6800 XTリファレンスカード」 |
ストレージ | Corsair「CSSD-F1000GBMP600」 (NVMe M.2 SSD、1TB) |
電源ユニット | Super Flower「Leadex Platinum 1000W」 (80PLUS PLATINUM、1000W) |
OS | Microsoft「Windows 10 Pro 64bit版」 (October 2020 Update) |
マルチスレッドは最大69%向上した「CINEBENCH R23」
まずは定番「CINEBENCH R23」でCPUの力比べといこう。デフォルト設定に従い、最低10分回してからスコアーを計測した。
4年前の初代Ryzen 7 1800Xのスコアーを基準にすると、現行のRyzen 7 5800Xはマルチスレッドでは69%向上、シングルスレッドでも57%と大幅に伸びている。「同コア数のCPU」が4年で60%以上スコアーが向上しているのは凄いというしかないが、ダブルスコアーに届かなかったのはちょっと残念な気もする(贅沢な文句だが)。
個別に見ると、とくにRyzen 7 2700Xから3800Xへのジャンプアップが大きく、Zen+→Zen 2への進化がいかに凄いものであったことがわかる。さらにそのうえでRyzen 7 3800X→5800Xで性能をさらに伸ばしているのは驚くしかない。Zen 4はどこまで伸びるのか、今から楽しみだ。
Zen 3で一気にスコアーが伸びた「PCMark10」
続いては、総合ベンチマーク「PCMark 10」で比較してみよう。アプリの起動からCGレンダリングまで、ゲーム以外の様々なシチュエーションでの利用を想定した“Standard”テストを実施した。総合スコアーだけでなく各テストグループ別のスコアーも比較する。
Standardテスト全体では、FirefoxやLibreOfficeなどを使った軽めの処理が主体であるため、CINEBENCH R23ほどの開きはないように見える。総合スコアーの伸びに注目すると、Ryzen 7 1800X→2700Xではせいぜい10%程度しか増えていないのに、2700X→3800Xでは17%、Zen+→Zen 2で全体のパフォーマンスが急激にアップ。Zen 2で採用されたアーキテクチャーが極めて有効であったことを示している。
Ryzen 7 3800X→5800Xは15%と伸びが鈍化しているが、プロセスルールは7nm据え置き(正確にはRyzen 3000XTシリーズで投入した技術を5000シリーズでも使用した)、かつクロックやTDPもほとんど変わらないのに内部設計の改善だけで15%伸ばした、という点に改めて驚かされる。
アプリの起動やFirefoxを利用したウェブブラウズ、ビデオチャット時における処理(これはOpenCLに重きをおいたテストなのであまり現実的ではないが)を使うEssentialsテストグループのスコアーだが、アプリの起動時間(App Start-up)でRyzen 7 2700Xと3800Xの間に大きな差が出ている。Zen 2世代のRyzen 7 3800X以降ではPCI Express Gen4でリンクするため、ストレージの読み書き性能向上がスコアーの引き上げにいくばくか貢献している(ただこの世代のシステムならストレージよりもCPUの処理効率の方が効くようだが)と考えられる。
LibreOfficeを使って表計算や文書作成処理を実行するProductivityテストグループでは、とくに表計算(Spreadsheet)スコアーの伸びがRyzen 7 5800Xで突出していることがわかる。Zen 3で採用された数々の改善が、LibreOfficeの表計算に極めて上手く噛み合った、と考えられる。文書管理(Writing)はSpreadsheetほど伸びていない点も面白い。
写真編集やCG作成など、クリエイティブ系ワークを中心にしたDCCテストグループでは、Rendering and VisualizationでRyzen 7 1800X→2700Xではほとんど伸びていないのに、2700X→3800X→5800Xと世代が進むにつれ、劇的にスコアーが伸びている点に注目。ここでもZen+までとZen2以降の間に大きな性能ギャップがあることが確認できた。
次のグラフはPCMark10に一番最近実装された、Office 365を実際に動かしてWord/Excel/PowerPoint、そしてMicrosoft Edgeのパフォーマンスを比較するApplicationテストの結果である。
ここでもRyzen 7 3800X→5800XでExcelのスコアーの伸びが目立つ。先ほどのProductivityテストグループといい、表計算で複雑な計算をする人ほど、Ryzen 5000シリーズの強さを実感しやすいといえるのではないだろうか。
「Media Encoder 2021」「Lightroom Classic」では?
続いてはクリエイティブ系アプリのメジャーどころとして、「Media Encoder 2021」と「Lightroom Classic」で検証してみよう。
まず「Premiere Pro 2021」で4Kの動画を編集し(再生時間は約3分)、これをMedia Encoder 2021でMP4動画へエンコードさせた時の時間を計測した。使用するコーデックはH.264およびH.265であり、ビットレートは共に平均50Mbps、VBRの1パスエンコード(H.265の場合は品質“高”設定)、フレーム補間は“オプティカルフロー”とした。
上のグラフは処理時間を表しているので短いほど高性能となるが、H.264の処理時間はトップと最下位の差がそれほどついていないように見える(それでも1分半近く違うが)。これに対しH.265では、Ryzen 7 1800Xと2700Xがとびきり遅かったが、Ryzen 7 3800Xと5800Xで大幅に処理性能が向上したことが分かる。Zen+→Zen 2の進化の過程で加えられた設計的革新が、Ryzenのパフォーマンスを大化けさせたといって差し支えない。
続いてはLightroom Classicを使い、100枚の調整付きDNGファイル(65メガピクセル)を準備し、最高画質のJPEGに書き出す時間を比較する。書き出し時にシャープネス処理(スクリーン用、適用量は標準)を付与した。
ここではRyzen 7 2700X→3800Xの間に3分近くの差がつく一方、3800X→5800Xの差はわずか10秒という極端な結果が得られた。Zen 2から倍増したL3キャッシュの存在が、この決定的な差をつけていることがわかる。