※この記事は2021年6月に日経ビジネスに掲出した記事の転載です。
世界的にPC(パソコン)市場が活況を呈している。コロナ禍に伴う在宅勤務や遠隔授業などの環境を整えるためにPCを購入する人が相次いだ。PCの急速な需要拡大を支えた立役者の1人が、米国半導体企業のAMDだ。CPU市場において、AMDの急成長による1強時代の終焉は、PC市場全体の底上げに繋がっている。AMDの攻勢は、2017年にリリースされた革命的なCPU「AMD Ryzen™」から始まる。知名度の低かったAMDが、わずか数年で日本市場に確固たるポジションを築けた要因とは? 量販店のビックカメラとPCメーカーのNECパーソナルコンピュータ(以下、NECPC)、両社のキーマンがAMD Ryzen™快進撃の舞台裏とともに、新たな市場を創造するチャレンジについて語った。
世界的なPC市場の活況を牽引するAMD
躍進のきっかけは
革新的CPU「AMD Ryzen™」の投入
2020年は、PCの歴史におけるマイルストーンとなった。一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)の「2020年度パーソナルコンピュータ国内出荷実績」によると、2020年12月には前年比216%、2021年2月には282.4%となり同月の過去最高売上を記録した。コロナ禍に伴う在宅勤務や、政府が小中学校に1人1台の学習端末を配備する「GIGAスクール構想」などが、ノートPCの需要を一気に押し上げた。
世界的なノートPCの売上も爆発的な伸びを見せている。米調査会社IDCがまとめた2020年の世界出荷台数(速報値)は6年ぶりに3億台を上回った。活況を呈するPC市場において、圧倒的な存在感を放っているのが、米国半導体企業のAMDだ。2020年度の第4四半期には前年度の第4四半期より53%増、通年で前年比45%増という大躍進を遂げた。日本のPC市場においても多くの人気ノートPCでAMDのCPUが搭載されている。
今や、CPU市場で確固たるポジションを確立したAMD。その躍進のきっかけとなったのが、2017年発売の第1世代AMD Ryzen™モバイル・プロセッサーの投入である。2つのコアを有するデュアルコアが一般的だったノートPC向けCPUにおいて、マルチタスク性能を向上する最大4コア/8スレッド、グラフィックス性能など最先端のトレンドを盛り込んだ野心的な製品戦略はPC市場から高い評価を受けた。その後もAMD Ryzen™は世代を重ねるごとに大きく性能を向上させ、第4世代AMD Ryzen™ 5000シリーズモバイル・プロセッサーでは、最大8コア/16スレッドまでラインナップを拡張した。
また、バッテリー寿命(ロングバッテリーライフ)が求められるモバイルPC向けCPUにおいても業界トップクラスの性能を発揮。近年ではAMD Ryzen™モバイル・プロセッサーに独立したセキュリティーコアを追加することで、ハードウェアレベルでのセキュリティーを強化し法人向けラインナップを拡充するなど、勢いはますばかりだ。
今や、量販店の店頭やECサイトでAMD Ryzen™搭載ノートPCを見ることは当たり前になった。しかし、日本市場におけるAMDの躍進は、一日にしてならず。消費者の漫然とした不安を生むAMDの低い認知度をいかに高めていくか。AMD急成長の舞台裏では、量販店やPCメーカーの果敢なチャレンジがあった。
Interview – ビックカメラ
店頭販売員向け勉強会を積極的に開催
お客様視点の提案で安心感をもたらす
どんなに優れた製品も、消費者が納得しなければ購入には至らないだろう。2017年に、ビックカメラが初めてAMD Ryzen™搭載のノートPCを取り扱ったときには、店舗や販売員によって知識レベルに差があり、製品の良さを上手く伝えきれなかったと、ビックカメラ商品部 MDグループ AVCカテゴリ マネージャー 森山幹生氏は率直に語る。ビックカメラは専門店の集合体だ。単にモノを売るだけでなく、商品の特性を魅力的に伝える「企画販売」と、お客様のニーズを実現する「コンサルティング販売」の2つの接客姿勢を大切にしている。
2018年に、ビックカメラは全社の戦略としてAMD Ryzen™の販売に本腰を入れた。森山氏は当時を振り返る。「AMD Ryzen™は性能が良くてコストパフォーマンスが高い。足りないのは、お客様にブランド名が浸透していないことです。当社は、NECPCさんと組んでプライベートブランドのAMD Ryzen™搭載ノートPCの販売を開始しました。販売店として、日本国内では無名に近いCPUブランドの普及に全社で取り組むことは大きなチャレンジでした、しかし、そんなリスクよりも、AMD Ryzen™の特長を訴求ポイントとすることで、当社の接客力が活かせることにビジネスチャンスを見出していました」
ビックカメラでは、AMDやPCメーカーの協力のもと店頭販売員向けの勉強会を積極的に開催。重要なポイントは、スペックやベンチマークではなく、お客様の“やりたいこと”が実現できる点を明確に伝えることだと森山氏は話す。「例えば、“Web会議を快適に行うだけでなく、動画配信サービスも楽しみたいなら、動画に強いAMD Ryzen™がぴったりです”と提案したり、“在宅勤務で複数の仕事を同時並行で行ったり、音楽や動画を再生しながらチャットをするなど、マルチでノートPCを使うならAMD Ryzen™がお薦めです”と、販売員がお客様視点から提案することで安心感をもたらすことが大切です」
ビックカメラにおけるAMD Ryzen™のシェア拡大について森山氏は振り返る。「AMD Ryzen™ は当初、PCを自作される方やヘビーユーザーの間で強い支持がありました。当社のプライベートブランド以外にも、各メーカーからAMD Ryzen™搭載ノートPCが次々とリリースされる中で、一般のお客様に認知が徐々に広がっていきました。人気が一気に高まったのは、コロナ禍に伴うテレワークや外出自粛によるノートPC需要の拡大でした。AMD Ryzen™ が得意とする動画再生やマルチタスクといった機能が重視され、当社でも販売台数が急増しました。『まさに時代がAMD Ryzen™に追いついた』と、PC自作を趣味とする私にとっても感慨深かったです。AMD Ryzen™搭載のノートPCなら、テレワークやオンライン学習はもとより、エンターテインメントも快適な環境でお楽しみいただけます」
森山氏はノートPCを選択する際のポイントについて言及した。「Web会議やオンライン学習はもとより、ノートPCで動画を扱うシーンの増加が想定されるため、AMD Ryzen™ 3 以上、理想的にはAMD Ryzen™ 5 以上をお薦めしています。お客様も、ある程度のスペックが必要になるとの認識はお持ちです。ビックカメラにおいて、コロナ禍以降のノートPCの平均単価は二桁を超えています。優れた性能のノートPCを、少しでも安く購入したいというお客様のニーズに、AMD Ryzen™はしっかり応えていると実感しています」
AMD Ryzen™搭載ノートPCの販売は、ビックカメラにおける新たな顧客層開拓にも有効なアプローチになると森山氏は話す。「当社におけるメインの顧客層は30代から40代の男性ですが、近年では子供連れのお客様も増えてきました。プログラミング教育の必修化など、家庭でPCを使って学習する際に、スペックが低くてすぐに固まってしまうと子供がPC嫌いになる可能性があります。AMD Ryzen™搭載ノートPCなら、家計にも子供にも優しい。今後も、お客様の立場や環境に寄り添う当社の提案力とAMDさんの技術革新を上手くマッチさせ、暮らしの質や満足度を高めるお手伝いをしていきます」
Interview – NECパーソナルコンピュータ
市場に衝撃を与えた主力ブランドへのAMD Ryzen™搭載
消費者の価値観の変化をビジネスチャンスに
2018年夏に国産ノートPC分野を牽引するNECPCが、主力ブランド「LAVIE Note Standard」にAMD Ryzen™搭載モデルをラインナップに加えたことは、日本市場に大きなインパクトをもたらした。まだ日本国内で知名度の低かったCPUブランドに着目した理由について、NECPCのコンシューマー向け製品における事業責任者である河島良輔氏は話す。「秋葉原で自作PC用にAMD Ryzen™を購入するための行列ができていると、当時話題になっていました。CPUは、いわば車のエンジンです。エンジンを提供するCPUメーカーの1強時代が続いていたため、お客様に提供するノートPCのバリエーションにも限界がありました。性能とコストのバランスが優れているAMD Ryzen™の採用により、お客様の選択肢を広げることができるのではないかと思いました」
NECPCは、AMD Ryzen™に関してパフォーマンス、グラフィック性能、マルチスレッドなどの検証を実施。「これはすごい、と思いました」と河島氏は振り返る。「AMD Ryzen™の特長を活かすことで、他社製品と異なる訴求ポイントを創出できます。また、NECブランドに対するお客様からの信頼に応えるために、AMD Ryzen™に対してもNECPC製品の品質基準のクリアを求めました。様々な検証を行う中で、AMD Ryzen™は低い知名度さえ払拭できれば、多くのお客様に受け入れられるだろうと確信しました」
2018年夏の販売当初からAMD Ryzen™搭載モデルの売れ行きは良かったという。NECPCは、取り扱う量販店を広げながら、CPU性能の選択肢拡充やモバイル用ノートPCへの採用などラインナップの充実を図った。AMD Ryzen™搭載モデルの販売拡大に向けて環境が整う中で、コロナ禍を迎えた。巣ごもり需要は、ノートPCに対する消費者の価値観に大きな変化をもたらしたと河島氏は指摘する。
「昔は、インターネットを通じた情報共有やコミュニケーションはPCで行っていたのですが、情報端末としてのメインの座は徐々にスマートフォンにシフトしていきました。コロナ禍前は、PCを利用する理由が仕事以外ではぼやけていました。モノからコト(体験)へと消費者の意識が変わる中で、コンシューマ向けノートPCに関しては提供するべき“コト”を見出せない状態でした。そうした状況がコロナ禍で一変しました。ノートPCは在宅勤務、オンライン授業、エンターテインメントなど日々の暮らしに欠かせない生活必需品となりました」
生活必需品として日々利用していくと、困り事もいろいろ出てくる。例えば、Web会議では、“音が途切れないようにしたい”、“顔をキレイに映したい”、“クリアな音声で聞きとりたい”など要求も明確となる。様々なニーズに応えた上で、コストパフォーマンスに優れた“お得感”も大切だ。この“お得感”は、AMD Ryzen™が市場を切り拓く推進力となってきた。
LAVIE Note Standardの後継となるLAVIE N15のAMD Ryzen™搭載モデルにおいて、AMD Ryzen™ 7 Extreme Editionを搭載したハイエンドモデルN1585/AALが売れていると河島氏は話す。「当社においてハイエンドモデルとしては異例の売上となっています。また、モバイル向け12インチサイズのLAVIE N12、自宅内で持ち運びに便利な14インチサイズのLAVIE N14も、AMD Ryzen™搭載モデルが売上拡大に貢献しています」
今後は、ノートPCも“コト”づくりが重要なテーマになると河島氏は話す。「Web会議、オンライン学習、動画視聴、SNSに投稿するための動画編集など、お客様の価値観の多様化にいかに応えていくか。お客様のニーズに対し、組み合わせるCPUによって差別化ポイントを創出する上で、AMD Ryzen™のポテンシャルはとても高いです。またコロナ後、オフィスとテレワークを組み合わせたハイブリッド型ワークスタイルでは、AMD Ryzen™の強みである小型化、省電力が遺憾なく発揮されます。これからもAMDさんと一緒に、お客様ひとりひとりの可能性を広げる製品を提供し、ノートPCの新たな歴史を開拓していきたいと思います」
テレワークにプライベートに最強の相棒となる1台!
LAVIE N15のフラッグシップモデル
「N1585/AAL」
AMD Ryzen™ 7 Extreme Editionを唯一搭載した機種。8コア/16スレッドによる圧倒的な性能で、複数の仕事を快適かつ迅速にこなせる。またコンテンツに合わせて音質を調整するヤマハ製AudioEngineを搭載し、音声が聞こえる範囲を調整できるミーティング機能や、マイクへのノイズを低減するノイズサプレッサー機能によりWeb会議も快適に行える。さらに卓越したグラフィック性能で優れたエンターテインメント体験も可能。ニューノーマル時代のライフスタイルを支える1台だ。