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消費電力は?
実アプリ系ベンチ検証はこの辺にして消費電力をチェックしよう。システム起動10分後の安定値とHandBrakeで前述のベンチマーク中の最大値をラトックシステム「RS-WFWATTCH1」で計測したが、さらにElmorlabs「PMD(Power Measurement Device)」を利用してHandBrakeエンコード中に2系統のEPS12Vに流れた電力も計測した。
システム全体で見ると3990Xの方が消費電力が高いが、EPS12Vに流れる電力を見ると5995WXの方が瞬間的に電力を多く消費している、ということになる。12900KFの消費電力の大きさを考えると、CGレンダリングやHandBrakeの処理ではワットパフォーマンスが極めて高いCPUに仕上がっているといえるだろう。
そしてこのHandBrakeによるエンコード中のCPUの状態を「HWiNFO PRO」で追跡たのが下のグラフだ。ここでは5995WXと3990WXの2つに限定して比較している。
消費電力の謎を解いてくれるのは上のグラフだろう。64コアの平均値だけを見ると5995WXは3990Xよりも低いが、最大クロックに注目すると同じシチュエーションなのに5995WXの方が高い。3990Xの平均と最大値はほぼ一致していることから、今回試した3990X用のマザーボードは全コアほぼ同じようにブーストするようなチューニングなのに対し、5995WXは需要の高いコアのクロックを優先的に上げるようにチューニングされているといえる(CPUコアへの負荷のかかり方がどちらも同程度である、という前提の話ではあるが)。
次のグラフはエンコード中の「CPU Package Power」と「PMDによるEPS12Vの消費電力」の推移となる。
まずCPU Package Powerでは3990Xの方が高いシーンの方が長い。システム全体の消費電力が3990Xの方が高かった理由であり、その理由はあまり負荷の高くないコアのクロックも引き上げているから、と考えられる。
そしてEPS12Vの消費電力を見ると、確かに5995WXの方が瞬間的に跳ね上がることが確認できたが、全体的には5995WXと3990Xで差はないように見える。実際にグラフ中の全期間(15分)の平均値を見ると、5995WXが193Wに対し3990Xは190Wとほとんど差がついていない。このデータだけで5995WXが優れていると断言できる材料はないが、少なくとも今回検証に使用した「WRX80 Creator」は5995WXのパワーを上手く引き出しつつも消費電力も抑えていると言えるだろう。
まとめ:競走なき市場に発展はあるのか?
以上でRyzen Threadripper PRO 5995WXの検証は終了だ。コア数が64基で据え置きになったため、驚くような結果は見られなかったが、用途によってはメインストリームCPUを圧倒するパフォーマンスを発揮できることを確認できた。クリエイティブ系アプリではメインストリームCPUに負けるシーンも多々見られたが、メモリー搭載量を2TBまで拡張できるという点は評価できる。
しかし、5995WXのコア単価は高いと言わざるを得ない。円安の影響下にある価格設定であるし、何より選ばれしプロ向けの製品なので高価なのは当たり前といえるが、ライバルとなり得るインテル製Core XやXeonシリーズの不在も原因になっている気がしてならない。現状のインテル製CPUではコア数でもプロセスルールでも、そしてパフォーマンス面でもThreadripperシリーズと真っ向勝負ができる製品がない。
望みの綱であるSapphire Rapidsも2023年に延期となれば、HEDT向けCPUでコア数の多いCPUが欲しいならThreadripperシリーズを選ばざるを得ない。競走圧力なきところに進歩はない。Threadripperの検証記事なのにこんな事を書くのは何だが、インテルが頑張ってHEDT向けに対抗馬を出さないことには、次世代ThreadripperはアーキテクチャーがZen 4だけの凡庸なアップデートになりかねない。