2017年にAMDから高性能CPUであるRyzenが登場し、DIY PC市場は一気に盛り上がった。当初はハイエンドモデルが中心であったRyzenも、2018年2月にグラフィックス内蔵のAPU(Accelerated Processing Unit)モデルを投入してきた。
AMD HEROESに掲載した前回の記事では歴代APUの「CPU性能」と「消費電力比較」で、Zenアーキテクチャーに進化したことによる大幅な性能向上とワットパフォーマンスを確認することができた。
しかしながら、APUの最大のウリはその内蔵グラフィックスの性能なのである。登場当初から内蔵グラフィックスでそこそこの3Dゲームが遊べることで話題になったAPUであるが、PCゲームの進化は目覚ましくそれに応じるように進化してきた経緯がある。
そのため、今回の記事では歴代APUのゲーミング性能を各ベンチマークで確認していきたい。
ちなみにAMDはAPUやグラフィックスボードにゲームのプレイチケットなどをバンドルするキャンペーン(現在は終了している)を行なっていることもあり、私が入手したものだけでも、レースゲームの「DiRT3」、MMO RPGの「ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オンライン」、シューティングゲーム「ダライアスバースト クロニクルセイバーズ」があり、PCゲームに積極的な姿勢であることが伺える。
各世代のAPUのグラフィックス性能を比較してみた
Ryzen世代のAPUでは最新のRADEON VEGA世代のグラフィックスが統合されている。これにより、今までよりも快適にゲームをプレイできることを歴代のAPUともに確認して行きたい。
また、昨今のゲーム環境ではフルHD(画面解像度1920×1080ドット)以上が一般的となっている。新しくなったAPUでそこまで快適に動作させられるか見ものである。
比較に使用した歴代APU8モデル
型番 | Ryzen 5 2400G | Ryzen 3 2200G | A12-9800E | A10-7890K |
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コードネーム | Raven Ridge | Bristol Ridge | Godavari | |
製造プロセス | 14nm | 28nm | ||
コア/スレッド | 4/8 | 4/4 | ||
クロック(定格) | 3.6GHz | 3.5GHz | 3.1GHz | 4.1GHz |
クロック(TurboCore) | 3.9GHz | 3.7GHz | 3.8GHz | 3.9GHz |
対応メモリー | DDR4-2933 | DDR4-2400 | DDR3-2133 | |
グラフィックス | RADEON RX VEGA11 | RADEON VEGA8 | RADEON R7 | |
TDP | 65W | 35W | 95W | |
プラットフォーム | SocketAM4 | SocketFM2+ |
型番 | A10-7850K | A10-6800K | A10-5800K | A8-3850 |
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コードネーム | Kaveri | Richland | Trinity | Llano |
製造プロセス | 28nm | 32nm | ||
コア/スレッド | 4/4 | |||
クロック(定格) | 3.7GHz | 4.1GHz | 3.8GHz | 2.9GHz |
クロック(TurboCore) | 4.0GHz | 4.4GHz | 4.2GHz | – |
対応メモリー | DDR3-2400 | DDR3-2133 | DDR3-1866 | |
グラフィックス | RADEON R7 | RADEON HD8670D | RADEON HD7660D | RADEON HD6550D |
TDP | 95W | 100W | ||
プラットフォーム | SocketFM2+ | SocketFM2 | SocketFM1 |
比較機スペック | |||
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CPU | Ryzen 5 2400G、Ryzen 3 2200G、A12-9800E | A10-7890K、A10-7850K、A10-6800K、A10-5800K | A8-3850 |
マザーボード | MSI「B350 PC MATE」(AMD B350) | ASRock「FM2A88X Extreme4+」(AMD A88X) | GIGABYTE「GA-A75M-UD2H」(AMD A75) |
メモリー | Crucial「BLS2K4G4D240FSB」(DDR4-2400、4GB×2) | Team「TED38192M1600C11DC3」(DDR3-1600、4GB×2) | |
グラフィックス | APU内蔵グラフィックス | ||
ストレージ | Samsung 「MZ-750120B/IT」 (SSD 750 EVO 120GB) | ||
OS | Windows 10 Pro (64bit バージョン1803) |
※今回のベンチマークではAPUのサポートする最高クロックのメモリではなく、普及価格帯のメモリを使用している。本記事ではRyzen世代のAPUを「Ryzen世代」、Ryzen世代以前のAPUを「旧モデル」と記載してる。
2400Gのスコアーは7年前のA8-3850の約3.9倍!
ファイナルファンタジーXIV(以下、FF14)はメジャーアップデートを繰り返しており、紅蓮の解放者で第4世代となる。要求スペックも変化しており、特にDirectX11の必要動作環境は当初のものに比べて高くなっている。
今回は解像度1920×1080、ウインドウ表示、高品質(デフォルト)及び最高品質の設定で比較してみた。
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世代ごとにスコアーが上がるという、ある意味順当な結果となった。ただし、Ryzen世代と、旧モデルとの性能差は大きく飛躍が目立つ。一方で、Ryzen 3 2200GとRyzen 5 2400Gの差はそれほど大きくはなかった。
1920×1080の解像度でも、標準画質(高品質)で「やや快適」、最高品質でも「普通」と判定されており、Ryzen世代なら内蔵グラフィックスでも十分プレイできるだろう。
実のところ、筆者はFF14登場時にショップブランドPCでプレイしていたことがある。マシンの構成はIntel Corei7-2600にGeForceGTX570搭載のグラフィックカードというものでプレイ自体は快適にできるのだが、グラフィックカードの発熱が大きく、実際パソコン周りに居ると暑いのである。ファンの音もなかなか賑やかになり、消費電力も300〜400W程度を上下していたのだ。
これをRyzen世代のAPUに置き換えるだけで、これらの発熱や騒音に対する環境が容易に改善できるのだ。内蔵グラフィックスの技術の進歩を感じられるのである。
標準品質なら2400Gは“すごく快適”評価で◎
ドラゴンクエストⅩ(以下、DQ10)は比較的動作の軽い3DオンラインRPGである。旧世代製品に同ゲームのプレイチケットがバンドルされていることもあったため、これらの製品でも問題なくプレイできるだろう。(省電力向けであった”AM1プラットフォーム”のAthlon5350でも解像度を1280×720に絞れば普通にプレイできたのだ。)今回は解像度1920×1080、ウインドウ表示、標準品質(デフォルト)及び最高品質の設定で比較してみた。
©2017 ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SQUARE ENIX All Rights Reserved.
A12-9800Eを除けば、世代が新しくなるごとにスコアが伸びている。他のベンチマークと同様にRyzen世代のスコアが特出している。
Ryzen世代の2モデルは最高画質で最高評価である「すごく快適」と2番目に高い「とても快適」と判定されており、ドラゴンクエストXでは最高のプレイが体験できると言って良いだろう。
2400GはFM2+最上位のA10-7890Kの約3.7倍!
ファンタシースターオンライン2(以下、PSO2)は2012年に正式サービスを開始されたタイトルであり、メジャーアップデートが繰り返され、執筆時の最新版は「EPISODE5」となっている。
ただし、ベンチマークソフトは「PSO2キャラクタークリエイト体験版 EPISODE4」が最新版なのでこれを使用した。
比較的重いタイトルということもあり、解像度は1920×1080、描画設定はデフォルトの(描画品質”中”相当の「3」)としている。
©SEGA
他のベンチよりも、Ryzen世代のスコアーの伸びが顕著である。特にSocketFM2+の最上位であるA10-7890Kと比較した場合、トリプルスコアーを超えており圧巻。
PSO2の公式HPによれば、ベンチマークのスコアが5001以上だと快適に動作すると記載されている。 高価になりがちなゲーミングPCだがRyzen世代APUの強力な内蔵グラフィックスがあれば、1920×1080の標準画質で快適にプレイできてしまうのである。
2400Gと2200Gのスコアーが逆転!?
Ice StormはDirectX11で動作するがDirectX9相当のAPIのみ使用しているテストである。比較的古めの3Dゲームの性能を確認する目安になると思う。(特にPCゲームの国内タイトルはDirectX9対応のものが多い為、最も重宝するのかもしれない。)
Ice Stormでは面白い結果となった。Ryzen世代が旧モデルよりも性能が高いことには違いないが、Ryzen 5 2400GとRyzen 3 2200Gのスコアが逆転しているのである。
Ice Stormのスコアー内訳 | ||
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Ryzen 5 2400 | Ryzen 3 2200G | |
Graphics score | 129359 | 129945 |
Physics score | 51160 | 63983 |
Graphics scoreはほぼ互角であるが、物理演算を担当するPhisics scoreはRyzen 5 2400Gの方が2割ほど低い。
これはRyzen 5 2400GではSMT(Simultaneous Multi-Threading)が有効になっているが、Ice Stormのソフト側が正しく認識できていない、或いはSMTを有効化することで効率が落ちてしまうケースがあるものだと考えられる。
一部のゲームでもこのようなパターンが考えられるようで、AMD純正のオーバークロック制御用ユーティリティの「Ryzen Master」のプリセット設定で「Game Mode」を選択するとSMTが無効になる。それほど落ち込み幅は大きく無いとは言え、気になるようなら設定を変更してみよう。
Sky DiverはDirectX11対応でミドルレンジPC向けのベンチマークである。 DirectX11はファイナルファンタジー14及び15でも採用されており、国内タイトルでも増えつつある。
こちらも世代を追うごとにスコアーが上昇するのだが、内蔵グラフィックスが「VEGA世代」「GCN世代」「それ以前の世代」に分かれるという結果になった。もちろん、VEGA世代のグラフィックスを採用するRyzen世代APUが最もリードしている。
Ice Stormとは異なり、Ryzen 5 2400Gが最も高いスコアとなっており、APU最上位モデルである面目を保っている。
個人的には低TDPでCPUクロックが低めに抑えられているA12-9800EがA10-7890Kを超えているあたりを見ると、省電力モデルも捨てがたく感じる。AM1プラットフォームからの乗り換えという意味では最適なのかも知れない。
まとめ:Ryzen世代のAPUはゲーミングPCを身近にする”コスパ派”に優しい選択肢だ
従来、メインストリーム向けAPUと言えば画面解像度が1280×720以下に限定するならば、多くの3Dゲームタイトルで実用的なフレームレートを得ることができた。しかし、現実問題として今時のゲームは1920×1080前提に作られているものが多く、1280×720という狭い画面だとメニューやウインドウが邪魔になって快適にプレイできないのである。
Ryzen世代のAPUではCPU性能のもちろんのこと、内蔵グラフィックスにVEGA世代のコアが採用されることにより、従来のKaveriやGodavari世代のダブルスコアやトリプルスコアと大幅な性能向上を遂げている。実際、各種ベンチマーク結果を見ても、多くのゲームタイトルで画面解像度1920×1080でプレイアブルなフレームレートを実現できている。
もちろん、最新のAPUとは言えミドルレンジ以上のグラフィックスカードには及ばない。力不足を感じるようになったらRADEON VEGA等のグラフィックスカードを増設することも可能である。
しかし、Ryzen世代のAPUを使うメリットは、以下で上げるようにグラフィックス性能意外にもその扱いやすさにあると言える。
消費電力が低い
ディスクリートのグラフィックスカードを搭載すると、どうしても消費電力が大きくなってしまう。その点、Ryzen世代のAPUではTDP65Wと一般的なCPUと大差ない。
今回の構成で組んだ場合、消費電力は負荷をかけた状態でも110W程度に収まっているのである。この程度の消費電力ならばスリムケースに付属するような300WのTFX電源ユニットでも十分動作させられるだろう。
発熱が小さく冷却が容易
消費電力が低いということは発熱も低いということである。また、グラフィックスカードを搭載した構成と比べると発熱源がAPUの1か所に集中する為、冷却が容易となる。
ファンの数が減るということは静音性も高めることも容易となる。ディスクリートグラフィックカードを搭載する場合、一般的に高負荷時に小型・薄型のファンが高速回転する形となり耳障りなのであるうえ、交換が難しいがCPUクーラーだと簡単に交換できる。
また、Ryzen世代APUには「Wraith Stealth」と名付けられたCPUクーラーが標準で付属しており、静音性は非常に高い。
簡単に小型ゲーミングPCが組み立てられる
グラフィックスカードを搭載しないこと、大容量電源が不要であることで小型のゲーミングPCを容易に組み立てることができるようになった。もちろん、小型PCでもハイエンドCPUやグラフィックスカードを組み込むことができるが、放熱や大型カードなどの部品干渉の点で敷居が高いのである。
何と言っても安い
APU内蔵のグラフィックス機能をする為、別途グラフィックスカードを用意する必要がなくなる。更にその分、消費電力も低くなるので電源ユニットも高価な大容量品を選択する必要がなくなるのである。(今やPCパーツのうち最も電力を消費するのは高性能なグラフィックスカードなのである。)
Ryzen世代APUでは大幅に進化した「Ryzen譲りの高性能CPU」と「RADEON Vega世代に刷新された内蔵グラフィックス」を搭載することにより、ゲーミングPCを導入する敷居を下げてくれる’コストパフォーマンス派’に嬉しい製品である。
これまでゲーミングPCが高価でPCゲームを諦めていた方にとって朗報ではないだろうか。家庭用ゲーム機やスマホからのステップアップにも是非お勧めしたい。