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cTDPはRyzen世代APUでも効果アリ?前世代との性能差に驚愕

文● ふっけん アスキー編集部●ジサトラ ハッチ

追加投資ゼロで発熱・消費電力を手軽に抑えられる「cTDP」

cTDP(Configurable TDP)という機能を覚えておられるだろうか? Kaveri世代の一部のAPUから採用されたTDPをコントロールする機能であり、追加投資ゼロでUEFIの設定だけで使用することができる。

性能をあまり落とさずに発熱と消費電力を抑えることができ、特にMini-ITXなどの小型ケースやスリムケース、常時稼働のパソコンなどを扱うユーザーに歓迎されたのだ。そんなcTDPだがRyzen世代の最新APUであるRyzen 3 2200G/Ryzen 5 2400GもcTDPの対応も謳われている。そのため、最新のRyzenAPUでどれくらいの効果があるのか気になるので、その効果を見ていきたい。

AMD公式ホームページより。Ryzen 3 2200GがcTDP対応であることがわかる。同様にRyzen 5 2400GもcTDPで46〜65Wに対応することが謳われている

cTDPを使用するために必要なもの

cTDPを使用するには同機能をサポートするマザーボードが必要となる。ただし、マザーボードメーカーのホームページに直接記載されていないことが多いので、マニュアルをダウンロードしてBIOSの設定項目などで機能の有無を確認しよう。

APUもcTDPに対応するものが必要となる。ただし、必ずしも対応を謳っているモデルである必要はなく、cTDP対応のAPUでなくともマザーボード側で設定をすることによって動作させることが可能である。以前、日本AMDの店頭イベントで伺った際には公式でcTDP対応を謳っているモデルはこの機能に最適化されており、TDPを下げたときの性能の低下が少ないそうだ。

また、余談だが今回検証を行なう前に、アスキー編集部からcTDPに関してASUS、ギガバイト、MSI、ASRockの4社にマザーボードの対応について問い合わせ行なった。ASUSはデフォルト設定を推奨するため非対応、ギガバイトもAPUは非対応、MSIは対応しているが通常のBIOSには設定項目はないとのこと。4社のうち正式に対応しているのは、ASRockのみとなる。

今回はAM4環境にASRock製「B450M Pro4」を、比較用のFM2+環境に同メーカーの「A88M-G/3.1」チョイスした。どちらもMicroATX対応のマザーボードであり、cTDPを活かしたスリムPCを組むのに最適だろう。

ASRock製「B450M Pro4」。コストパフォーマンスに優れるAMD B450チップセット搭載マザーボードである

ASRock製「A88M-G/3.1」。FM2+末期に登場した、M.2やUSB3.1を備えるある意味「変態」なマザーボードである

cTDPの設定方法の項目名は製品によって異なる

cTDPの設定方法だが、マザーボードによって設定項目の名称が若干異なる。

ASRock B450M Proの場合は「UEFI」→「Advanced」→「AMD CBS」→「NBIO Common Options」→「System Configration」の順に開くことで設定することが可能だ。同じASRockでもA88M-G/3.1では項目名が「Target TDP」という名称になっているので注意したい。

設定自体は至って簡単で、好みのターゲットとするTDPを選択すればOKだ。

ASRock製「B450M Pro4」ではAutoを除くと「65W」「45W」「35W」の三択となる

ASRock製「A88M-G/3.1」ではAutoを除くと「65W」「45W」の二択となる

AM4世代とFM2+世代のAPUでcTDP性能を比較してみた

cTDPを試す機会をいただいたので、その効果を最新のRyzenAPUとFM2+の前世代のAPUとで比較してみよう。いくつかのベンチマークソフトを走らせたときのスコアと消費電力、CPU温度で比較してみた。

比較に使用したCPU
モデル Ryzen 5 2400G Ryzen 3 2200G Athlon 200GE A12-9800E A10-7850K A8-7600
コードネーム Raven Ridge Bristol Ridge Kaveri
製造プロセス 14nm 28nm
コア/スレッド 4/8 4/4 2/2 4/4
クロック(定格) 3.6GHz 3.5GHz 3.2GHz 3.1GHz 3.7GHz 3.1GHz
クロック(TurboCore) 3.9GHz 3.7GHz 3.8GHz 4.0GHz 3.8GHz
グラフィックス RADEON RX VEGA 11 RADEON VEGA 8 RADEON VEGA 3 Radeon R7
TDP 65W 65W 35W 35W 95W 65W
cTDP 46/65W 46/65W 45W/65W
プラットフォーム SocketAM4 SocketFM2+

現在発売中のRyzenAPUである2モデルに加え、発売したばかりのRyzenベースで低TDPのAthlon 200GE、同じく低TDPでBistol RidgeベースのA12-9800E、そして前世代のFM2+プラットフォームより、公式にはcTDPに対応していないA10-7850Kと対応しているA8-7600を用意した。

CPU、メモリ、マザーボード以外の構成は同一とした。CPUクーラーは付属のものではなく、サードパーティーのもので統一している。

cTDPの比較に使用したパソコンの構成
AM4環境 FM2+環境
CPU(APU) Ryzen 5 2400G、Ryzen 3 2200G、Athlon 200GE、A12-9800E A10-7850K、A8-7600
CPUクーラー Thermaltake Contac Silent 12
メモリ DDR4-2400 4GB×2 DDR3-1600 4GB×2
マザーボード ASRock B450M Pro4 ASRock A88M-G/3.1
グラフィックス APU内蔵グラフィックス
電源 玄人志向 KRPW-SS600W/85+
OS Windows10 Home 64bit 1803

CPU温度を比較する為、マザーボード付属のユーティリティ「ASRock A-Tuning utility」を使用してCPUクーラーの回転数を約900rpmに固定した。

AM4とFM2+はマザーボードが異なるのでCPU以外にも消費電力が変わる要素があることを承知していただきたい。

RyzenAPUのCINEBENCH R15スコアはほぼ誤差の範囲

まずは定番のCINEBENCHのスコアがcTDP有効時にどのように変化するのか確認してみた。


まず、マルチスレッドのスコアに着目するとRyzenAPUのスコアが飛びぬけていることがわかる。登場したばかりのエントリーモデルであるAthlon 200GEでも前世代のA12-9800EやA10-7850Kよりも高いことに世代の進化が感じられる。

cTDPを有効にした際のスコアだが、Ryzen 5 2400Gでは順当に少しずつ下がっており、FM2+世代のモデルと同様の傾向がある。対して、Ryzen 3 2200Gはほとんど変化がなかった。

一方、シングルスレッドのスコアはRyzenAPUの2モデルはcTDP有無による変化はほとんどないとと言って良いだろう。これについては消費電力とCPU温度と併せてみていきたい。

Ryzen 3の消費電力は元が低いのでcTDPの効果はほぼない

cTDP有効時にCINEBENCH実行時の消費電力がどのように変化するのか確認してみた。


注目の消費電力だがマルチスレッドのRyzen 5 2400GではcTDPを低く設定するにつれ下がっていることがわかる。 一方、Ryzen 3 2200Gではほとんど変化がない。この2つのCPUはTDP65Wであるが、cTDP無効時の消費電力はRyzen 5 2400Gが100Wに対しRyzen 3 2200Gは69Wと元々低いのだ。つまり、元々TDPが低い為にcTDPの枠に引っ掛からないのかもしれない。これならば前項のスコアの変化が小さい点についても合点がいく。

シングルスレッドではRyzenAPUの消費電力はFM2+世代の2モデルよりもずっと低く、cTDPによる差がほとんど出ない。

CPUの温度は消費電力と同じような傾向

次にcTDP有効時にCINEBENCH実行時のCPU温度がどのように変化するのか確認してみた。


CPU温度は概ね消費電力と同じ傾向がある。RyzenAPUはFM2+世代のモデルよりも全体的に低めであった。FM2+の2モデルはcTDPによる下がり方が大きく、当時の小型PCでcTDPが注目されていた理由がよくわかる。

Athlon 200GEとA12-9800Eは全コアのフルロードで33℃前後と恐ろしく温度が低く、凄いとしか言いようがない。

シングルスレッドではマルチスレッドよりも発熱が低く、cTDPの枠に引っ掛からないようで、A10-7850Kの45Wを除けばcTDPの有無による温度差はほとんどなかった。

RyzenAPUは消費電力が低いながらもFF14のスコアが高い!

ファイナルファンタジーXIV(以下、FF14)はメジャーアップデートを繰り返しており、紅蓮の解放者で第4世代となる。今回は解像度1920×1080ドット、ウインドウ表示、高品質(デフォルト)の設定で比較してみた。

RyzenAPUとその他を二分するようなスコアとなった。cTDPによるスコアの変化はほぼない。A10-7850KとA8-7600の45W設定でわずかに下がっているくらいだろう。RYZEN 5 2400Gのスコアは上記の設定で「快適」、RYZEN 3 2200Gは「やや快適」評価となっており、APUだけでも十分に楽しめる性能を持っている。

消費電力はAthlon 200GEを含むRaven Ridge世代のCPUとそれ以外のグループに分かれた。Raven Ridge世代の方が低くcTDPによる消費電力の変化はない。対して、FM2+世代の2モデルは順当に下がっていることがわかるが、最も低い45W設定でもRyzenAPUのcTDP無効時(65W)に及ばない。

CPU温度はFM2+の2モデルが高くある程度はcTDPの効果が見られた。RyzenAPUに関してはRyzen 5 2400Gの35Wで効果が見られたが、Ryzen 3 2200Gでは効果が見られないという一貫しない結果となった。 原因は不明だがCPU使用率とRyzen 5 2400GのSMTに関係があるのかもしれない。

これらの結果からFF14をプレイするならRyzenAPUの2モデルが最適であろう。Athlon 200GEなら更に消費電力と発熱を抑えることができるが、1920×1080ドットの解像度でプレイするにはもう少し性能が欲しいところだ。

35W設定でわずかにcTDPの効果アリ

ファンタシースターオンライン2(以下、PSO2)は2012年に正式サービスを開始されたタイトルであり、メジャーアップデートが繰り返され、執筆時の最新版は「EPISODE5」となっている。

ただし、ベンチマークソフトは「PSO2キャラクタークリエイト体験版 EPISODE4」が最新版なのでこれを使用した。 今回は解像度1920×1080ドット、ウインドウ表示、画質設定はデフォルトの「3」の設定で比較してみた。

RyzenAPUのスコアがずば抜けているのに驚くがcTDPによるスコアの変動は全くと言って良いほど「ない」。FM2+の2モデルは設定に応じて順当に下がっていることがわかる。評価はRyzen 5 2400G、Ryzen 3 2200Gいずれも5000以上の「快適な動作」。Athlon 200GEですら、標準的な動作の2000以上のスコアーを記録している。

RyzenAPUは消費電力はcTDPの影響がほとんどない。35W設定がかろうじて効いているかといった具合である。一方、FM2+の2モデルは消費電力の下がり幅が大きい。但し、RyzenAPUはcTDP無効時でも消費電力は低く、これもcTDPの動作する枠に入らないのかもしれない。

CPU温度についても消費電力と同様でRyzenAPUはcTDPの影響はほとんどない。FM2+は順当に下がるが、こちらもRyzenAPUの方が全体的に低く、優秀さが伺える。Ryzen 5 2400GとRyzen 3 2200Gは同じTDP65Wだが、実際の発熱はそれなりの差がある。

一方、Athlon 200GEに至ってはファンレスでも運用できるのでは……と思えるような低さである。

35Wで確かな効果!Athlon 200GEの消費電力の低さは圧倒的

消費電力とCPU温度を測定するのに外せないのがOCCTである。ストレステスト用のソフトウェアであるため、他のベンチマークソフトより負荷が重く、ロード時は最大級の消費電力となると考えてよい。

消費電力ではTDP95WのA10-7850Kが特出しており、cTDPの効果が明確に出ている。同様にRyzen 5 2400Gに関しても幅は小さいもののcTDPにより消費電力が低下している。

Ryzen 3 2200Gは35Wのときだけ効果ありとCINEBENCHのマルチスレッドのときと同様の傾向を示している。やはり、この辺にcTDPが利き始める枠があるのだろう。

余談だがAthlon 200GEは別格と言えるほど消費電力が低くことにも注目したい。ロード時にPC全体でわずか51Wというのは驚異的でA4ノートPCにありがちな65WクラスのACアダプタでも動作するレベルである。

CPU温度は消費電力とほぼ同じ傾向である。温度が全体的に高く感じかもしれないが、これは意図的にCPUクーラーの回転数を抑えているからである。とは言え、Athlon 200GEとA12-9800EのネイティブTDP35W優秀さが出ていると思う。

消費電力はCPU負荷時よりも全体的に低い。また、CPU負荷時にはcTDPで明確な差が出てきたA10-7850Kがほぼフラットになっている。GPU負荷時だとそれほどTDPが上がらない為に差が出ないのかもしれない。

CPU温度もCPU負荷に比べると全体的に低い。Ryzen 5 2400GはcTDPの効果が出ているようだ。RyzenAPUのVEGAベースのグラフィックスコアは、FM2+世代のそれよりも低発熱と言えそうだ。

ただし、A12-9800EはGPU周波数が抑えられていることもあり別格に低い。

RyzenAPUでもcTDPは効果アリ!

今回は小型ケースであともう一歩CPU温度を下げたいというときに使えるcTDPをRyzenAPUで試してみたが「FM2+世代ほどの効果はないものの消費電力とCPU温度を低減することができる」という結果となった。追加投資ゼロで実施できるので小型PCであと一歩CPU温度を下げたいという方には試してみる価値はあると思う。

ただし、RyzenAPUをTDP35W設定にしても、Athlon 200GEのネイティブな35Wには及ばない。この記事の執筆時点ではリテール市場向けに投入されるかは定かではないが、TDP35WのRyzen 5 2400GEとRyzen 3 2200GEの国内投入にも期待したいところである

RyzenAPUはFM2+世代と比較すると全体的に消費電力が低く、CPU性能は概ねマルチスレッドで2倍、シングルスレッドで1.5倍と大幅に性能が向上しており、内蔵グラフィックスもライトな3DゲームならFullHD解像度でも十分にプレイできる性能を持っている。旧世代のマシンでゲームをプレイしていて発熱や騒音が気になるという方にもお勧めだ(参照:以前のAPUの記事)。

個人的にはスリムケースにRyzenAPUを組み込んでリビングのテレビに繋げ、コンシューマーゲーム機のようにゲームを楽しみたいと思う。スリムケースPCならリビングに置いても家族に白い目で見られなくて済むはずなのだ。

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