「ゲーミング用途」の機能はぬかりなく、ほかは「基本に忠実」でガマン
さらに見ていこう。X570 AORUS ELITEが譲らなかったところとして挙げられるのは。一体型バックパネル、オーディオ回路、そしてフロントUSB 3.2 Type-Cヘッダーなど。
まず、一体型バックパネルは高級感という以外ではユーザーの組み立て易さぐらいだと思われる。ただ、メーカー側の製造という観点からは組み立てコストがかかる部分だ。ちなみに、マザーボード交換の際に手間が抑えられたり、交換後の保管時にバックパネルを紛失することを予防できたりと、一体型バックパネルが地味ながら効果的な設計と言える。
オーディオ回路は、こだわる方ならUSBの外付けや拡張カードを用いるかもしれないが、低コストを重視し当初はオンボードを使用するというなら高性能であるほうがよい。X570 AORUS ELITEが採用しているチップは、RealtekのALC1200だから特別というわけではないが、ノイズシールドを装着した同社「AMP-UP」仕様。オーディオ用のアナログ回路とマザーボード側のデジタル回路を分離した設計も採用している。よくマザーボードのオーディオ回路の性能として比較されるのがコンデンサ。ニチコンのFine Goldなどが有名だが、X570 AORUS ELITEはそのFine GoldとWIMA製のオーディオコンデンサを組み合わせている。WIMAもヨーロッパでは高音質のコンデンサとして知られるメーカーだ。
また、低価格のマザーボードでは省かれがちなフロントUSB 3.2 Type-Cヘッダーをしっかり搭載しているところはポイントが高い。本製品の場合、バックパネルにはType-C端子を搭載していない。あくまで、ケースやベイアクセサリなどで、ユーザーが追加すればよいというスタンスだ。
そのほか、LANチップも譲らなかった点と言えるかもしれない。X570 AORUS ELITEが採用しているのは、シンプルに1GbEだが、ゲーマーが好むIntel製チップだ。Intel製チップは遅延が少なく、途切れることが少ないとされる。安価なモデルではRealtek製チップを採用することが多い。もちろん、Realtek製チップも十分に信頼性が高くなってきたと聞くが、安心材料としてのIntel製チップ採用はゲーマーにとって心強いのではないだろうか。
X570 AORUS ELITEがシンプルなマザーボードに見える理由の一つがM.2ヒートシンクかもしれない。X570 AORUS ELITEには2つのM.2スロットがあるが、ヒートシンクは1つだけだ。標準でヒートシンクなしの下段スロットも、構造上、ヒートシンクを装着できる。たとえばこちらに発熱のより高いSSDを搭載するなら載せ換えてもよい。もっとも、最近はM.2 SSD自体ヒートシンク装着済みのものが多いので、片方しかないからといって困ることもないだろう。
チップセットヒートシンクも、シンプルな構造をしている。小径ファンを搭載し、表面のパネルはシールのように見える。ただ、ファンもありそれなりに大きいため、冷却不足になることはないだろう。ファンの回転数を制御するのは同社「Smart Fan 5」。
ゲーミングマザーに求められる設計とは何か。そこを絞り込むことで生まれた製品
X570 AORUS ELITEはここまで見てきたようにハイエンドゲーミングマザーボードと比べるとハデさは抑えられている。機能はチップセットの仕様に準じ、ヒートシンクなども基本的にはスタンダードマザーに準ずる。一方で、コストの制約のあるなかでも、CPU電源回路やオーディオ、拡張スロットの強度といった部分でゲーミングマザーボードに求められるスペックを実現している。低コストなゲーミングPC自作が目的なら、こうしたバランスに注目したい。
とくに回路部分。よくATX電源でも、高級品は日本メーカー製コンデンサ、普及モデルは台湾メーカー製コンデンサがよく利用されるように、台湾メーカーのAPAQ製を採用している。その意味ではX570 AORUS ELITEは普及モデルだ。ただし、耐熱105℃品なので信頼性は補強される。信頼の積み重ね、実績では少し足りないかもしれないが、気になるようならケース内のエアフローを少し持ち上げ、稼働時の温度を少し引き下げればよい。それだけで、ベストと思われるコスパと、ゲーミング用途に耐えうる高性能PCを手にすることができるだろう。