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上位モデルとの差別化に苦慮が窺えるスペック設定
では現時点で判明しているRX 5600 XTのスペックをチェックしてみよう。RX 5600 XTのCU数は36基なのでRX 5700と同じだが、動作クロックは大幅に押さえ込まれており、メモリーバス幅は192bit、搭載メモリーは12Gbps相当のGDDR6となっている。
Wave32に対応した新しいCompute Unit(CU)の構造や、PCI-Express Gen4や新世代の動画再生支援機能など、Navi由来の要素は全て継承されている。Typical Board Power(いわゆるTDP)は150Wに抑えられている。
原稿執筆時点で判明しているRX 5600 XTのスペックは以下のとおり(※付きは筆者の推測によるもの)。ベースクロックは不明だが、「ゲーム中はゲームクロックで動くからベースクロックは出す意味がない」とのこと。
Radeon RX 5700 | Radeon RX 5600XT | Radeon RX 5600 | Radeon RX 5500XT | |
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開発コードネーム | Navi10 | Navi10 | Navi10 | Navi14 |
製造プロセス | 7nm FinFET | 7nm FinFET | 7nm FinFET | 7nm FinFET |
Compute Unit数 | 36 | 36 | 32 | 22 |
ストリーミングプロセッサー数 | 2304 | 2304 | 2048 | 1408 |
ベースクロック | 最大1465MHz | 不明 | 不明 | 不明 |
ゲームクロック | 最大1625MHz | 1375MHz | 1375MHz※ | 最大1845MHz |
ブーストクロック | 最大1725MHz | 1560MHz | 1560MHz※ | 最大1845MHz |
テクスチャーユニット数 | 144 | 144※ | 128※ | 88※ |
ROP数 | 64 | 64※ | 64※ | 32 |
メモリー速度(相当) | 14Gbps | 12Gbps | 12Gbps | 14Gbps※ |
搭載メモリー | GDDR6 8GB | GDDR6 6GB | GDDR6 6GB | GDDR6 4GB/8GB |
メモリーバス幅 | 256bit | 192bit | 192bit | 128bit |
Typical Board Power | 185W | 150W | 150W※ | 130W |
補助電源 | 8+6ピン | 8ピン※ | 8ピン※ | 8ピン |
RX 5600 XTの設計に新規要素はないが、Radeonの歴史を語る上で非常にユニークな存在となっている。それはRX 5600 XTは新規コアではなくRX 5700のダウンスケール版となっているため、メモリーコントローラーが192bitという中途半端な幅になっている。
192bit幅というのはGeForce系ではミドルクラスGPUによく採用されているが、Radeonで192bit幅は今までに例のない構成だ(64bit→128bit→256bitとなる。384bitは過去に存在した)。
何故192bitというRadeon史上半端なメモリーバス幅を採用したか、その理由はRX 5700に8基組み込まれているメモリーコントローラーを1基無効化したためだ。RX 5600 XTのVRAM搭載量が6GB構成となっているのは、メモリーコントローラーの削減と表裏一体というわけだ。
メモリー(VRAM)周りの仕様はこれまでのRadeonの戦略からは異質と言ってよい。これまでのRadeon、特にミドルクラスRadeonにおいては、競合するGeForceに対し、性能面ではやや劣っていたとしても、VRAM容量に勝ることを武器にしてきた。
例えば近年の売れ筋、つまりGTX 1060やGTX 1660ではVRAMが6GBなのに、RX 470〜RX 590では8GBが選択できる。Modを入れてVRAM消費量が大きくなってもRadeonなら余裕がある、というのがRadeonの強みのひとつだったのだが、RX 5600 XTはこれを捨ててしまった。
この決定に対してAMDは、RX 5600 XTの想定するゲーミング環境、つまりフルHD&最高画質プレイを想定した場合、6GBあれば十分であるとブリーフィングで伝えてきた。これはNVIDIAがこれまで言っていたことをそのまま使っているのに等しいが、そうであれば下位のRX 5500 XTに8GB版があることと矛盾する。
RX 5500 XTはフルHDを程々の画質で楽しむためのGPUだが、そうした環境では8GBも必要ないことの方が多い。RX 5600 XTの言い分を正しいとするなら、RX 5500 XT 8GB版は無駄の極みとなってしまう。
RX 5600 XTのメモリー周りの決定は、ひとえにRX 5700シリーズのスペック設定を見誤った結果のしわ寄せと筆者は感じている。RX 5600 XTが36CUで256bit/GDDR6 8GB構成のままだと単なるダウンクロック版RX 5700となってしまい、RX 5700の存在意義が希薄になってしまう。
CUを減らすとテクスチャーユニットも減るが、仮想敵であるGTX 1660 SUPER/1660Tiを性能で上回るためには少ないCU/テクスチャーユニットで高クロック化するよりも、CU/テクスチャーユニット数そのままで低クロック化する設計(TBPも低くできる)を選んだということだ。
このような設計にすることで、RX 5700シリーズとRX 5500 XTの間のパフォーマンスを得て、さらに価格的に競合するGTX 1660 SUPERやGTX 1660Tiよりも上回れる、とAMDは主張している。