高速インターフェースが充実。データ転送を高速化して作業効率アップ
制作の現場ではインターフェースも生産性向上のための重要な要素だ。なかでもとくに重要視されるのがネットワークではないだろうか。各PCでデータを作成するとしても、それを共有したり配布したりといった場合、社内ではまずネットワーク経由で行なわれることが多い。Creator TRX40には2系統の有線LANが搭載されている。1系統は互換性、安定性で実績のある1GbEで、もう1系統は次世代の10GbEだ。
10GbEに関しては、スイッチ(ハブ)などそのほかの機器も10GbE対応である必要があり、すぐに移行という企業はまだ少ないかもしれない。ただ、Creator TRX40のようにマザーボード側に搭載していれば、将来の移行を見据えた先行投資であり、いざ移行という際にNICを導入して拡張スロットを一つ消費する必要がないといったメリットもある。
10GbE機器は既存の1GbE機器と比べてまだ高価だが、年々安くなってきている傾向だ。従来の10倍の転送速度となれば、出力データの転送時間も1/10に短縮できる。この費用対効果を見極めたい。
Creator TRX40で組むシステムはデスクトップPCなのであまり重要度は高くないが、無線LANとしてWi-Fi 6にも対応している。Creator TRX40の搭載しているWi-Fi 6は最大2.4Gbps。これも現在主流のWi-Fi 5(IEEE802.11ac)を大きく上回る。こちらもWi-Fi 6対応無線LANルーターなど、環境構築に投資が必要だ。しかし、過去のテストではWi-Fi 6接続で1GbEに匹敵する転送速度が得られている。Creator TRX40は有線の1GbEも搭載しているわけだが、万が一のバックアップ、といった考え方もできる。
もう一つはUSB 3.2 Gen2x2 Type-C。USB規格は多少ややこしいが、現在のプラットフォームで標準サポートされているのはUSB 3.2 Gen2(あるいはUSB 3.1 Gen2)で転送速度は10Gbpsだ。これに対し、USB 3.2 Gen2x2では倍の20Gbpsまで速度が引き上げられる。バイトに直せばおおよそ2.5GB/sとなる。
昨今、それも映像系システムではPCI Express接続のM.2 NVMe SSDを用いることが多いため、システム内では3GB/s以上の転送速度であることが多い。それに対し、外部ストレージ用のインターフェースの転送速度はUSB 3.2 Gen2でも1.25GB/sで遅く、ここがボトルネックとなっている。USB 3.2 Gen2x2はチップセットとは別チップで実装されており、これを搭載していることは大きなポイントとなるだろう。
良質な電力と十分な冷却で安定性重視のCPU周り
「ワークステーション」と呼ばれるように、映像制作などの現場ではとりわけ安定性が重要視される。Threadripperで自作するケースは少し違うが、目指すところはワークステーション。それだけ安定性重視の設計がマザーボード選びの決め手になる。
安定性でもっとも重要なのがCPU電源回路。とくにThreadripperのように最大消費電力が大きく、稼働中の負荷変動も激しい場合、TDP 100W前後のメインストリーム向けマザーボードと比べて電源回路の重要性がよりいっそう高まる。
Creator TRX40のCPU電源回路は16フェーズ。トータルで70A出力に対応している。16フェーズという数自体は、ハイエンド向けTRX40マザーボードではほぼ横並びだ。フェーズダブラーを用いている製品もまだ見られない。VRMヒートシンクを外して回路を見れば明白だが、16フェーズ以上に増やすスペースはほとんど残っていない。ただし、この回路を構成する部品、PWMコントローラやMOSFET、チョークなどはグレードもさまざまなので差別化になる。
PWMコントローラはInfineonの「XDPE132G5C」。16フェーズの制御に対応したデジタルPWMコントローラチップだ。対象がAMDのSVI2 CPUとCPU、NVIDIAのGPUなどと記載されており、大電力を要求するパーツ向けの製品になる。MOSFETはInfineonの「TDA21472 OptiMOS Powerstage」。
Creator TRX40ではCPU電源回路以外の電源回路にもこのチップを多数使用している。アンコア部分の電源回路のPWMコントローラには、Infineonの「IR35204」(3+1フェーズ対応PWMコントローラ)などの利用が確認できた。基本的にInfineon製品が中心で構成されており、信頼性重視の部品選択だ。
これらの電源回路用のヒートシンクは超大型だ。VRM部分は当然、バックパネル寄りのI/Oシールドからオーディオや各追加チップ部分をカバーするヒートシンク、さらにはATX24ピン横を抜けてチップセットヒートシンクまで、ヒートパイプ「Extended Heat-Pipe」を通じて熱を拡散し、冷却している。
VRMヒートシンク部分にファンを搭載しておらず、ただしヒートパイプで結ばれた先、チップセット部分には小径ファン1基を搭載している。ノイズ源はこの一箇所ということになるが、そこはビデオカードの静音性で人気のMSIがマザーボードにも技術をフィードバックしているということだろう。
先に紹介したExtended Heat-Pipeやフィン型のVRMヒートシンクなど、各部がつながり全体から放熱が行なわれるため、チップセットヒートシンク自体の負荷も小さい。それに加えて、チップセットファンとして見ればやや大口径と言えるファンには、Zero Frozr機能が搭載されている。ファン軸はダブルボールベアリングだ。
追加機能は生産性向上、3990Xの性能を最大限引き出すためのもの
MSI Creator TRX40は、第3世代Threadripper対応マザーボードのなかでも、豊富な機能を揃え、安定性重視の電源&冷却設計を盛り込んでいる。TRX40マザーボードとして見ても比較的高価格帯の製品だが、ベースのマザーボードに、ここで紹介したような機能、設計、部品選び、そしてM.2 XPANDER-AERO Gen4などのバンドルを考慮すれば、案外お得にも感じてしまう。
制作環境として、豊富かつ高速ストレージインターフェースは重要だ。とくにThreadripper 3990Xでの自作でボトルネックになるストレージ転送速度の強化は生産性に大きく寄与する。また、追加機能、とくに高速な次世代インターフェースなどは、制作物の納品や配布などに有効だろう。もちろん、そうした付属品は不要という方には向かない。その意味でクリエイティブ用途にターゲットを限定したモデルと言えるだろう。