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アニメ現場のデジタル化には
「紙と同じ環境」が求められる
――今回どういった経緯でデジタル化を推進し始めたのか、教えて頂けますでしょうか
伊東氏:テレコム自体は40年以上アニメーションを作っている会社なのですが、その中の一部では、デジタルで「作画」の作業を行なう取り組みを、20年くらい前からやっていました。
東映アニメーションさんなどが、初めてセルに色を塗る作業をデジタル化したのが1990年代後半で、そのころからテレコムでも「ペイント」や「動画」の工程をデジタルでやり始めてました。しかし、まだまだアニメの現場では“紙”で作業するのが基本になっています。
デジタル作業が増えている中で、なぜ紙が今も残っているかと言いますと、一番クリエイティブな部分である、アニメーターが絵コンテからレイアウトや「原画」を描き起こす工程が紙だからです。
しかし、ここ5、6年の間でセルシスさんの「CLIP STUDIO」のようなデジタルペイントソフトが出てきたことなどもあって、原画もデジタルでやっていこうという機運が高まってきた背景があり、いろいろな会社が原画をペンタブで描いていく取り組みをしてきています。その時にトムスとしても、アニメ制作のデジタル化をしていかなければという話がでてきました。
ただトムス自体は、マネージメントスタッフはいますが、アニメーターなどを自社で抱えている制作現場というわけではなかったため、トムスグループとしてアニメ制作をデジタル化をしていくときに、制作現場を持つ子会社を中心にデジタル化していこうという話になっていきました。
そこで、トムスにデジタル推進部(当初は推進室)というものができて、テレコムでプロデューサーをやっていた私が出向という形で赴き、自社でクリエイターを抱えているテレコムのデジタル化を中心に、アニメ制作をより効率化していこうという取り組みを開始しました。
――AMDさんのPCを導入するきかっけはどういったものだったのでしょうか?
伊東氏:一番最初は、テレコムのデジタル化を進めていくにあたって、2年位前にアニメーターにPCを手配する機会があったのですが、その時に森本さんをご紹介頂いてデジタル作画用のPCとして40台くらいのPCを導入させて頂いたというのが始まりです。
――アニメ制作の現場では原画を作る以外に、PCを使う作業というのはどういったものがあるのでしょうか。
伊東氏:原画以外の作業に関しては、基本的にデジタルでやっています。原画という作業は、アニメーションのなかの要所要所のポーズをつける作業です。その間のフレームを埋めていって、動画としてなめらかに動かす工程があるのですが、ここはデジタルの作業です。
色を塗るのもデジタルペイントですし、背景の絵も20年くらい前からPhotoshopを使ってデジタルで描いています。キャラクターやエフェクト、背景などの各素材をひとつに合わせるコンポジットもAdobe After Effectsでやっていますし、3DCGも当然PCでの作業です。
――では、ここ最近デジタル化したのは原画の工程だけなんでしょうか。
伊東氏:そうですね。過渡期というか、もともと100%紙で原画を描いていたものが、今はデジタルを併用しながらのハイブリッドに少しずつ移り変わってきています。アニメ制作では、原画で動きを作ってから、スキャンして色を塗るという工程なので、動きを作るところまでは鉛筆で描いていました。
これをペンタブで描けるようにしていきましょうというのが、“作画のデジタル化”というものです。業界的にはまだ8割くらいが紙と鉛筆を使っているので、なかなか一気にデジタル化するというわけにはいきませんが、徐々に着手し始めているという状況です。
――紙からデジタルに移行する際のハードルなどは、どういったところにあるのでしょうか。
伊東氏:アニメーターは職人気質なところもあるので、いきなり鉛筆をペンタブに持ち替えてくださいと言っても、なかなかうまくいかないというのがあります。
若い世代はペンタブも使い慣れていますし、デジタル環境にも順応しやすいのですが、いまアニメーターの中心になっている人が40代以上で、50代の方も現役でやっていますし、テレコムでは60代以上のアニメーターも現役で活躍しています。
そういった現場の中で、今までの環境を一度に変えるというのはなかなか難しいです。PCの使い方など、基本操作からやらないといけないので、テレコムのデジタル化で考えなければいけなかったのはそこですね。
――確かに、PC初心者でいきなり業務をすべてデジタルでやるというのは大変ですよね。
伊東氏:紙ならではの表現力とか便利さというのもあり、デジタルでは「線が固い」とか「キャラクターの温度感がない」とか、そういったことを言われてしまうこともあります。後は、紙だと机に置いて並べて見られるのですが、PCだと作業領域がディスプレーの中にしかないので、そこにやりづらさを覚える人もいたり、ペンタブを使っていて、ガラス面と紙の摩擦の違いで、「描いている感じがしない」といった声を聞いたりもしています。
システムというよりは“人”の問題というのが結構大きい部分ですね。表現や技術はデジタルでどんどん進化していきますが、使う人もそこにどれだけフィットしていけるかというのが、これから普及していくかどうかのカギなのかなと思っています。