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Zen 3世代のAPU「Ryzen 7 5700G」「Ryzen 5 5600G」はPCパーツ高騰時代の救世主なのか?(5/5)

加藤勝明(KTU) 編集●ジサトラハッチ/ASCII

※この記事はASCII.jpからの転載です(文中リンクはASCII.jpの記事に飛ぶことがあります)

Lightroom ClassicではRyzen 5000Gシリーズは不利

ゲームの検証はこのあたりにして、クリエイティブな処理におけるパフォーマンスもいくつか検証しておこう。まずは「UL Procyon」から“Photo Editing Benchmark”を試してみる。Lightroom Classicだけを使うBatch ProcessingとLightroom Classic+Photoshopを組み合わせるImage Retouchingテストを実施し、各々の作業の処理時間をスコアーに変換(大きいほど優秀)したものだ。数値を見てピンと来ないかもしれないが、“○割高速か”のイメージを掴んで頂きたい。

「UL Procyon」Photo Editing Benchmarkのスコアー

まず、コア数が最も少ない(4コア/8スレッド)Ryzen 5 3400Gが最下位なのは当然として、ここから性能ほぼ2倍に相当するのがRyzen 5 5600X(青いバーで描かれているPhoto Editingスコアー基準)。Ryzen PRO 4000Gシリーズは1.4〜1.5倍、Ryzen 5000Gシリーズは約1.8倍といったところだ。

ここで面白いのはBatch Processingのスコアー(グレーのバー)だが、Ryzen 5000シリーズはBatch Processingが一番高いのに対し、他のAPU勢は総合スコアーと大差ない所に着地している。これは先のPCMark 10におけるPhoto Retouchingテストのスコアーの出方とも一致しており、Ryzen 5000GシリーズのL3キャッシュの少なさが影響していることを示している。

ただRyzen PRO 4000Gシリーズと比べると著しい伸びではあるため、現行のRyzen 5000シリーズには手がでないが快適なRAW現像マシンが欲しい場合には、Ryzen 5000Gシリーズは良い選択肢になるだろう。

UL Procyonで得られた仮説をさらに検証するために、Lightroom Classicでいつも行っているDNG100枚→JPEG書き出し時間でも検証してみよう。ソースの画像は調整ありのDNGファイル(61メガピクセル)100枚、それを最高画質のJPEGに書き出すが同時にシャープネス(スクリーン向け、適用量標準)も付与する。

「Lightroom Classic」によるDNG→JPEG書き出し時間。このグラフではバーが短いほど優秀

ここでもRyzen 5000Gシリーズは対応するRyzen 5000シリーズよりも遅いが、Ryzen PRO 4000Gシリーズよりは早いという位置付けになっている。Ryzen 5 5600Gの方がRyzen 7 5700Gよりも15秒速い点に興味を引かれるが、これはどちらのCPUもTDP65W枠ゆえに、コア数が2基多いRyzen 7 5700Gはパワーや温度のリミッターが発動しやすく、ゆえにコア数に見合った性能を出せないことが示されている。

「Media Encoder 2021」では予想外に遅かった

Ryzen 5000Gシリーズを動画編集PCにするというアイデアはどうだろうか? そこで「Premiere Pro 2021」で編集した4K動画(再生時間約3分)を「Media Encoder 2021」にて1本の4K MP4動画にエンコードする時間を比較する。エンコードの設定はVBR/1パスのソフトウェア(CPU)エンコード、ビットレートは平均50Mbpsとした。

このテストの素材や設定は「Ryzen 5 5600Xこそ最強CPU!? 初代から第4世代まで、Ryzen 5の進化を検証」「8コアRyzenのパフォーマンスはこの4年間でどう変わったか?歴代Ryzenを横並びで比較」と同一であるため、旧世代Ryzenとの差が気になった時はそちらも参照して頂きたい。

「Media Encoder 2021」による4K動画のエンコード時間

Ryzen 5000シリーズはH.264なら10分、H.265でも12〜14分台で終了する処理だが、Ryzen 5000Gシリーズでは小一時間かかっている。ただCINEBENCH R23でマルチスレッドテストのスコアーがより下のRyzen PRO 4000Gシリーズとの差が僅差である点から、CPUの電力設計やクロックの差ではなく、内蔵GPUを使っているが故の制限といえる。

Premiere ProやMedia Encoderでは動画のデコード処理にOpenCLを利用したエンジンを使うのがデフォルトであり、今回の検証でもオンにしているが、この処理の部分で内蔵GPUが足を引っ張ったようだ。Ryzen 5000Gシリーズだけで動画編集マシンは不可能ではないが、GPUを使うような処理は極力避けなければならないようだ。

コア数が多いがゆえに絞られる

最後に消費電力の計測をして今回は締め括ろう。アイドル時および「OCCT Pro」の“CPU”テスト(以前はOCCTテストと呼ばれていたもの)を実行した際のシステム全体の消費電力を測定する。グラフ中のアイドルとはシステム起動10分後のことを、OCCTとはCPUテストを10分実施した際のピーク値を示している。電力計はラトックシステム「RS-WFWATTCH1」を使用した。

システム全体の消費電力

まずビデオカードが存在するRyzen 5000シリーズはアイドル/OCCT時ともに消費電力が大きい。特にTDP105W設定のRyzen 7 5800Xは今回検証した中では最も消費電力が激しかった。それに比べるとTDP65WのRyzen 5 5600Xはだいぶ控えめだが、Ryzen 5000Gシリーズは同じTDP65Wでもさらに低い。さらに言えばRyzen PRO 4000GシリーズとRyzen 5000Gシリーズは同じ7nm世代だが消費電力はRyzen 5000Gシリーズの方が小さい。これはAMDがRyzen 5000Gシリーズに加えた“最適化”の効果と考えられる。

もう一つ注目なのはRyzen 7 5700GよりもRyzen 5 5600Gの方がOCCTを回した時の消費電力が少ないという点だが、これはLightroom Classicの検証にもあった通りTDP65Wという枠が同じなのに物理コア数が8基あるRyzen 7 5700Gは、6基しかないRyzen 5 5600Gよりも厳しい電力制限下にあるためだと考えられる。

次回は安価なRyzenとして見た時のパフォーマンスにフォーカス

以上でRyzen 5000Gシリーズの最初の検証は終了だ。Socket AM4はこのZen 3世代が最後と言われており、Zen4ではソケット形状が変更になるとされている。Zen 3+VegaなRyzen 5000GシリーズはSocket AM4向けのAPUとしては最後の製品になる可能性が高い(筆者の勝手な予想)。その点でいえばRyzen 5000Gシリーズは現時点におけるAPUの完成形といえるだろう。Zen 3ベースのCPUを得たことで、マルチスレッド性能は確実に向上している。

しかしながら、実際にテストしてみると、快適に動作することは確かだがRyzen PRO 4000Gシリーズとあまり変わらないな……というのが正直な印象だ。特に内蔵GPUが絡む処理の場合、CU数の少ないVegaベースのGPUと、メインメモリーと共有のVRAMの遅さに足をとられ、Ryzen PRO 4000Gシリーズに毛が生えた程度のパフォーマンスにとどまる。

VALORANTやFF14(ベンチ)のように、描画負荷を下げることでCPU性能の良さを引き出せるゲームにフォーカスするなら、Ryzen 5000Gシリーズも評価できるが、そのようなゲームばかりではないのが残念だ。Ryzen 4000GとRyzen 5000Gは性能に差が出ないから4000Gシリーズは一般販売しなかった、というAMDの判断は至極まっとうだ。もしRyzen PRO 4000Gシリーズの販売がなければ「前世代からの素晴らしい性能向上」と言い切れただろう。

ただRyzen PRO 4000Gシリーズと異なり、Ryzen 5000GシリーズはきちんとパッケージやCPUクーラーが付属。保証期間についても他のRyzenと同様の3年保証となる。バルク版のみ&保証1年のRyzen PRO 4000Gシリーズと比べると、より安心して使える、と言い換えることもできる。

だが検証はここで終わった訳ではない。次回は安価なRyzenとして見た時のパフォーマンス検証のほか、発熱データなどを中心に補足的なレビューをお届けしたい。


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