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3D V-Cache搭載「Ryzen 7 5800X3D」はCPUのゲームチェンジャーになれたのか?(7/7)

※この記事はASCII.jpからの転載です(文中リンクはASCII.jpの記事に飛ぶことがあります)

消費電力はむしろ下がっている

さてパフォーマンスにおいて現行Ryzenを凌ぐ第12世代Coreプロセッサーの最大の欠点は高負荷時における消費電力の高さである。そして現行Ryzenの強みはその逆、ワットパフォーマンスの高さにある。

そこでシステム全体の消費電力を比較しよう。ここでは「RS-WFWATTCH1」を使用し、システム起動後10分後の安定値(アイドル時)と、HandBrakeで動画をエンコードした時のピーク値(高負荷時)を比較した。HandBrakeのエンコード条件は前述のテストと同じである。

システム全体の消費電力

第12世代Coreプロセッサー、特にCore i9-12900KSの消費電力の高さに圧倒されるが、Ryzen勢の消費電力はせいぜい260Wと低い。今回も第12世代CoreプロセッサーはPower Limitを無制限(マザーの初期設定)としているためでもある。改めてRyzenは電力消費に一定の縛りをかけつつも、その中で最大のパフォーマンスが期待できるCPUであると再認識できるだろう。

そしてRyzen 7 5800X3DはRyzen 7 5800Xよりも25W程度ピーク消費電力が低い。両者のTDPは同じ105W設定だが、どうやらクロックが低め&OC不可という設計が消費電力抑制の原因と考えられる。

これを確かめるために「HWiNFO Pro」を使い、HandBrakeでエンコード開始から約10分間のCPUクロックの推移を調べてみた。

エンコード中のCPUクロックの推移。分かりやすいようにRyzenだけに絞っている

CPUクロックが最も高かったのはRyzen 7 5800Xであり、4.52GHzあたりで安定している。その一方でRyzen 7 5800X3Dは4.35GHz前後に抑え込まれており、消費電力が相対的に下がっていることが裏付けられている。

クロックが下がれば当然CPU温度も下がるはずである。特にRyzen 7 5800Xはそのまま使うとCPU温度が高くなりやすいという欠点があった。ではRyzen 7 5800X3Dはどうだろうか? RyzenはTctl/Tdieの値を、第12世代CoreプロセッサーはCPUパッケージ(Tcase)を追跡している。

エンコード中のCPU温度の推移。ここでは第12世代Coreも比較に加えた

まず最も温度が高いのはCore i9-12900KSで93℃前後で安定しているが、処理の終盤で一瞬だけ100℃に到達することもあった。2番手〜3番手までは接戦でCore i9-12900K、Ryzen 7 5800X3D、そしてRyzen 7 5800Xが激しく競り合っている。

Ryzen 7 5800X3Dはどちらも同程度の温度を示しており、今回の検証におけるCPU温度はどちらも85℃前後。1℃にも満たないレベルだがRyzen 7 5800X3Dの方が高いという結果になった。クロックが下がってもCCDの上に増築したL3キャッシュやシムが放熱の妨げになっていると考えて良さそうだ。この温度上昇を考慮にいれたうえでクロック抑制やOC不可というRyzen 7 5800X3Dの仕様に収れんしていったのではないだろうか。

CPUの消費電力についてElmorlabs製「PMD(Power Measurement Device)」と「EVCX2X」を利用し、 Handbrakeで処理中のEPS12Vに流れる電力も追跡してみた。データの追跡にはHWiNFO Proを使用している。

HandBrakeでエンコード中にEPS12Vを流れた電力の合計値

EPS12Vの消費電力はシステム全体の消費電力の順位に完全にリンクしている。即ちCore i9-12900KSが最も高く、Ryzen 7 5800X3Dが最も低い。EPS12Vの消費電力が低いということは、CPUの電源回路の設計が古めな旧世代マザーでも使いやすい(少なくとも、Ryzen 7 5800Xよりは)ことを示している。

上のグラフで採取されたデータを集計し、EPS12Vの消費電力の平均値等をまとめたのが下のグラフだ。

HandBrakeエンコード中にEPS12Vを流れた電力のまとめ

このデータからでもRyzen 7 5800X3DはRyzen 7 5800Xよりも電源ユニットにより優しいチョイスであることが分かる

ハマるゲームならCore i9-12900KSをも倒せるが、総合的にはRyzen 7 5800Xとの性能差は極めて小さい

以上でRyzen 7 5800X3Dの検証は終了だ。一般的なCPUとして見た限りでは、96MBという超大容量L3キャッシュのメリットを感じられる点はほとんどなかった。Ryzen 7 5800Xより確かに速いシーンもあるが、コア数の多いRyzen 9 5900Xに負けることも多い。

一方ゲームではF1 2021のようにCore i9-12900KSを打ち倒す例も見られたものの、3D V-Cacheの効果が見られないゲームもそれなりに観測された。ゲームの設計とRyzen 7 5800X3Dが上手く噛み合えばコア数で上回る上位Ryzenをも超えられるというのは非常に面白い。

ただZen 4(Ryzen 7000シリーズ)発売を今年後半に控え、現行Ryzenは急激に値が下がってきている。発熱面ではRyzen 7 5800X3Dと同様にCPU温度が高止まりしやすいため、むしろコア数の多いRyzen 9 5900Xを選んだ方が扱いやすいかもしれない。

以上のことから、今回のRyzen 7 5800X3Dはライバルに反撃するための製品というよりは、AMDの技術の高さを知らしめるショーケース的な側面の強い製品だなという感触を受けた。3D V-Cacheという要素は非常に面白いものの、それを十分に活かせるアプリはなかなか存在せず、さらに8コアなのでメガタスクな状況での活用にも制限がある。

Ryzen 9 5900X3Dのような12コアモデルもあばまた評価も違ってきたと思うが、今のRyzenユーザー(特に5000シリーズ)が買い換えるターゲットになるとも考えにくいのだ。

Ryzen 7 5800X3Dを買い換えるべきユーザーとは、既にRyzen 1000〜3000シリーズを使っていて、クリエイティブ系アプリにおける尖った性能は必要としないが、ゲーミングPCとして強化しておきたい人ではないだろうか。Socket AM4で安く組みたいのであれば、メモリー付きで特価になったRyzen 7 5800XやRyzen 5 5600Xを選び、浮いた金でビデオカードやストレージを回した方がお得感がある。


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