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スケジューラーの構造を大きく変更した
バックエンド
次がバックエンドである。先にも書いたが、Integer(整数演算)が最大8イシュー、Float(浮動小数点演算)が最大6イシューとなり、その意味ではどちらも同時実行命令数は増えてはいるのだが、やや筆者の予想と異なる最適化の方向性になっていた。
このレベルでの最大の相違点はスケジューラーの変更だ。Zen/Zen 2は、AGUとALUを別々に扱うという仕組みで、であれば7つの発行ポート全体をカバーするスケジューラーにした方が効率が良いという判断であった。この発想はインテルとかなり近い。これに対してZen 3では以下の4つに分解されることになった。
Zen 3のスケジューラー | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
Scheduler 0 | ALU0+AGU0 | |||||
Scheduler 1 | ALU1+AGU1 | |||||
Scheduler 2 | ALU2+AGU2 | |||||
Scheduler 3 | ALU3+BRU1 |
これはなぜかと言えば、おそらくだが実際に実行中のプロファイルを取ってみると、予想以上にメモリー演算が多かったのだろう。そもそもRISCの場合、演算命令はレジスターに対して行なう形で、メモリーアクセスが可能なのはロード/ストアー命令に限られている。だからこそAGUとALUは別々に動かしても問題ないという発想である。
これはx86も同じで、x86なりx64そのものはCISCであるが、Micro-Opに変換した段階でRISC風になっているため、ALU命令そのものはすべて内部のレジスターに対して行なう形となり、これとは別にメモリーからレジスターへのロード命令が自動的に生成される形になる(ストアーに関しては原則として、x86/x64でも明示的に命令を発行する必要がある)。
ただ、そうした「メモリーからのロード+演算」の組み合わせが少なければ、ALUとAGUを別々に駆動しても問題ないのだが、その頻度があまり多いようだと、ALUとAGUがペアになって動く方が効率が良いことになる。
そもそも、先のフェッチ/デコード段の概要を説明する画像で、Dispatchから出てくるのは「Macro-Ops」であることに注意されたい。これはインテルの言うMacro-Opsと同じもので、要するに複数のMicro-Opsの組み合わせである。要するにフェッチの段階では
x86 | ADD reg, Mem | メモリー上の値を加算するx86のADD命令 |
だったのがデコードの後では
Micro-Op | load Mem, reg1 | reg1にMemの内容をloadするMicro Op |
add reg, reg1 | regにreg1の内容を加算するMicro Op |
に変化し、これがDispatchを出るときには、以下のようにまとめられるわけだ。
Micro-Op | load&add reg, reg1, Mem | 上の2つのMicro OpをまとめたMacro Op |
今まではスケジューラーの中で、このMacro-Opをもう一度ほぐしてALUとAGUに命令を投入していた形だが、そうであれば最初からほぐさずにスケジューラーでは1つのMacro Opとしてスケジューリングを行ない、それを発行する段階で2つに分離した方が効率が良いと判断されたようだ。このあたりはK7→K8の構造の推移に非常に近い。
下の画像は10 issue per cycleとあるが、これはStore Data×2が図には入っていないためだ。
実際にはStore Dataの作業はロード/ストアーユニット側なのでここに計上するのは間違っているのかもしれないが、整数演算系で1サイクルあたり2つのストアーが可能(従来は1つ)というのは、特にメモリーに書き出しが多いアプリケーションでは性能向上につながることになる。