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ダイサイズから見るRenoirとCezanneの違い
CezanneはGPUが巨大化しメモリーコントローラーが小型化
次はRyzen 5000 Mobileシリーズについてだ。冒頭でも触れたように、Cezanneコアの特徴そのものについてはすでにKTU氏の解説があるので、氏が触れていない話をいくつか。まずはダイそのものについて。
Cezanneコアは180mm2と発表されており、156mm2のRenoirよりも一回り大型化しているのだが、せっかくダイの詳細が公開されているので比較してみた。
左がCezanne、右がRenoirである。今回縦横比が両方で同じかどうか判断する基準がなかった関係で、Renoirが156mm2相当になるようにCezanneのサイズを縦横比一定のまま拡大しているので、ひょっとすると縦横比が多少正確ではない可能性がある。
さてそれはさておき。こうして両方を見比べてみると、実はCezanneはRenoirのCPUをZen 3に置き換えたという以上に結構あちこち再設計されているのが見て取れる。
まず黄緑色がCore+3次キャッシュの部分である。ここはそもそもZen 2→Zen 3でエリアサイズが大型化した(はず)なうえ、3次キャッシュも4MB×2→16MBと倍増している関係で、縦方向に長くなっている。実際にCCX部分(緑)の面積はRenoirが39.5mm2、Cezanneは47.7mm2ほどで、2割ほど増えている格好になる。
そこまではいいのだが、肝心のコア部の面積は? というと、Renoirが2.22mm2、Cezanneが2.20mm2と、むしろZen 3の方がエリアサイズが小さくなっているいう、やや辻褄が合わない話になっている。
あいにくZen 3(つまりVermeer)はまだダイ写真を公開していない関係で答え合わせができないのだが、もしかしたらZen 3のCPUコア部のエリアサイズはZen 2より小さくなっているのかもしれない。
逆に、同じ8CUのVegaコアにもかかわらず、明らかに大型化しているのがGPU部である。黄色がフロントエンド部(つまりシェーダー部)であるが、Renoirがおよそ11.2mm2、対するCezanneは15.1mm2ほどで、明らか内部配置などが異なっているし、CUの間隔ももう少し縦方向にゆとりがある。
そもそもRenoir→Cezanneでは350MHzほど最大動作周波数が引きあがり、その一方で消費電力は同等になっているわけだが、ここまで寸法が異なるというのは、同じ消費電力でもより高速動作が可能なように、物理的に作り直された可能性が大である。
その一方で、より省電力動作が可能になったというメモリーコントローラーの物理層(水色)に関しては、Renoirが14.7mm2ほどなのに対してCezanneは8.7mm2ほどと大幅に小型化されている。また枠では囲わなかったが、メモリーコントローラー物理層の右にあるブロック(おそらくUSBのコントローラーやPHYと思われる)も微妙に小型化しているなど、ほぼすべてのブロックに手が入っていることがわかる。
LucienneはRenoir Refreshではなかった
ついでにLucienne(ルシエンヌ)について。KTU氏も深くは突っ込んでいないのだが、AMDの担当者に確認した限りで言えば、Lucienne≠Renoir Refreshということが確認できた。つまりLucienneはRenoirがベースではなくCezanneがベースとなっており、ただしCPUがZen 2というやや不思議な構成になっている。
実際LucienneとRenoirを比較すると、CPUに関してはほぼ同じ程度の動作周波数で3次キャッシュの容量もRenoirと同じだが、新たにCPPC2での電力制御がCezanne同様に行なわれている。
一方、GPUに関しては明らかにLucienneの方が高い動作周波数で、しかもCU数が多い。CU数に関して言えばTiger Lakeとの比較の中で少しGPU性能を引き上げたというあたりだろうが、動作周波数についてはRenoirベースのままでヘタに上げるとTDP枠をはみ出すから、そうそう上げられない。このあたりはCezanneのGPUコアを利用することで、GPU性能の引き上げが可能になったわけだ。
ただ正直言って、わざわざZen 2コアベースの派生型を混ぜるべき理由がさっぱりわからない。それもRenoir Refreshであればまだしも、そうではないとなるとAMDの意図が理解できない。とりあえず連載597回で書いた、「LucienneとはRenoir Refresh」というのは間違いであったことを報告しておきたい。